君がくれたお土産

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君がくれたお土産

背中にはリュック。 右手にはキャリーバッグとパンパンに膨れたお土産袋。 そして、左隣には俺の片想いの相手、羽田(はねだ) 大和(やまと)。 2人で河川敷を歩く学校からの帰り道。 「修学旅行あっという間だったな。」 「そうだね。あ、蒼翔(あおと)にお土産。」 そう言って大和が差し出したオレンジ色の紙袋。 「お土産?俺も一緒に修学旅行行ってきたけど。」 「クラス違うから別行動だったでしょ。」 首を傾げながらこちらを見つめる彼は『王子様』と学校の女子達に呼ばれるだけあってどんな仕草も爽やかでかっこいい。 「これを見つけた時、蒼翔のことが浮かんで。…俺の気持ち。受け取ってほしい。」 「いいの?…ありがと。」 出会って5年。親友としていつも一緒にいた俺達だけど、誕生日もクリスマスも家族旅行のお土産も渡したことなんてお互い一度もなかった。 そんな彼が初めてくれる贈り物。 急にどうした?何か企んでる?なんて一瞬想像したけれど、普段は冷静沈着な大和でも修学旅行という非日常にはしゃいだのだろう。 イベントマジックってやつだろうか。 俺の知らない大和を見たであろう彼のクラスメイトが羨ましいと思った。 「今開けていい?」 「うん、今開けてほしい。」 紙袋の中にはピンクのリボンがかけられた小さな木箱。 オルゴールだ。 2日目の自由行動で立ち寄ったオルゴール館で買ったのだろう。 俺のクラスメイトの女子達が絶対行きたいと観光マップを見ながら盛り上がっていたことを思い出した。 オルゴールの側面に付いているネジを数回回す。 聴こえてきたのは、あたたかくて優しい音色。 音楽とか芸術とかよく分からない俺でも分かる。 大和はこの音を聴いて俺を連想したと言う。 なんてロマンチックな男だろう。 友達の多い大和が修学旅行という非日常のなかで、俺のことを一瞬でも思い浮かべてくれたと分かっただけでも嬉しいのに。 大和の目には…いや、耳には、俺がこの音色のように響いているのだとしたら、たまらなく嬉しい。 一生の宝物にすると決めた。 「良い音だな。ありがと。あ、でもごめん。俺からは何も返せないや。今度、学食奢るよ。」 「ううん、俺が蒼翔に聴いてほしいと思っただけだから。気にしないで。何食べよっかな、1番高い日替わり定食にしようかな。」 そう言ってオレンジ色の夕日を浴びながら小さく笑う大和は、いつもとどこか違って見えて。 一生の宝物を手に、大和へ"好き"がまたひとつ募った。
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