君との距離

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君との距離

オルゴールをもらったあの日から今日で3ヶ月が過ぎた。 修学旅行も終わり、受験モードに切り替わると、大和が俺のクラスに顔を見せることはなくなり、帰りが一緒になることも一気に無くなった。 その間、大和と会えたのは3回だけ。 下校が重なった2回と学年集会で1回。 学食を奢る約束は果たせていない。 大和がきてくれないと話すどころか全く会えないことに今更気付いた俺は、学食に誘うなら矢吹が風邪で休みの今日しかないと思い、2時限目が終わると1人大和の教室に向かった。 突然教室に顔を出した俺に、大和と内山はもちろん、なぜか他のクラスメイトまで驚いてこちらを見てくる。何かまずいことでもしただろうか。 大和は慌てたように俺のところにきて、教室から離れた場所に俺を連れていった。 ひさしぶりの大和に内心嬉しくなっていると、「なんできた?」と問われ「学食まだ奢ってないから」と答えると、大和は大きくため息をついた。 「最近模試で忙しいから別にいいよ。本当に奢ってもらう気なんてなかったし。そんなことで俺のクラスまでわざわざ1人でこなくていい。お互い受験に専念しよう。」 迷惑そうに言い放たれ、俺は追い返されてしまった。 今まで聞いたことのないような低い声、冷たい表情。 これまで喧嘩もしたことがなく、そんな態度をされたのは初めての俺は、どうやって教室まで戻ったのか記憶にないほどショックを受けた。 滅多に話しかけてこないクラスメイトが教室に入るなり「大丈夫?」と俺に声をかけてくるのだ。余程酷い顔をしていたのだろう。 俺は「受験生は忙しいんだって。」と自分に言い聞かせるように呟いた。 それからの授業は何一つ身に入らなかった。 大和を怒らせてしまったのかもしれない、嫌われてしまったかもしれない、遠回しに会いたくないと言われた気がする、そう思えば昼食をとる気にもなれなかった。 家に帰り、ベッドに身体を投げ出した。ふと、枕元のオルゴールを手に取る。大和から貰ったあの日から日課のように何十回と回してきたオルゴールのネジを今日もまたくるくると回す。 俺さえ気持ちを伝えなければ、これからもずっと友達でいられると思っていた。でも現実は違った。俺の気持ちなんか関係なく終わりを告げることもあるのだと。 そんな時でも、手元のオルゴールからはいつもと同じ音が優しく響いていた。
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