君の想い

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君の想い

それからさらに1年が経ち、あっという間に卒業式を迎えた。 あれから大和と何度か話す機会があったものの、4人の中で俺と大和だけは距離があるように感じたまま。 卒業式が終わり、校舎を出る。 遠くにクラスメイトと校門をくぐる大和の後ろ姿が見えた。 高校最後の日だというのに、卒業証書を貰う大和の後ろ姿を、去っていく大和の後ろ姿を見ただけで、目が合うこともなく終わってしまった。 春からは、内山は市内の体育大学に、俺と大和そして矢吹の3人はそれぞれ学部は違うが同じ大学に進学することが決まっていた。今回は合わせたわけではなく偶然だ。 いくら大学が同じとはいえ、学部が違ければ大和に会える機会もないだろう。あれほど仲が良かったはずなのに、このまま俺達は疎遠になっていき、同窓会で遠目に見かけるくらいの関係に成り下がるのだろうと思うと胸が苦しくなった。 苦しさを誤魔化しながら、矢吹と最後のクラス会に向かう。 大和に追い返されたあの日から、クラスメイトは俺に話しかけてくるようになった。矢吹が委員会や休みでいない時は一緒にご飯を食べたり、放課後に一緒に自習をしたりとクラスに馴染み、たまの息抜きに遊びやクラス会にも誘われるようになった。大和と疎遠になってぽっかりと空いた心を完全に埋めることはできなかったけれど、矢吹をはじめとするクラスメイトと一緒に過ごす時間は楽しかった。 イベントの打ち上げは焼肉食べ放題からのカラオケがお決まりのコース。 音楽に疎い俺は、すごくヒットした曲か大和に勧められた曲くらいしか知らない。そんな俺がカラオケに行くのは場違いかと思っていつもは焼肉だけ食べて帰っていたけれど、この日ばかりはみんなと別れ難くて、ひさびさにカラオケに足を踏み入れた。 矢吹には「蒼翔は無理して歌わなくてもいいからな」と言われ、素直な俺はドリンクバーのコーラを片手に聴き役に徹する。 みんなノリノリで歌って笑っていて、曲なんて知らなくても想像以上に楽しめた。 場違いなんか気にしないでくればよかった。 そんなことを今更思いながら画面に目を向ければ、大和が好きなアーティストの名前が映し出される。 あ、と思ったのも束の間、斜め前に座る男が泣きながら歌い始めて驚く。 クラスメイト曰く、好きだった女の子に彼氏がいたことが発覚して失恋したらしい。 歌詞が表示されている画面には好きな人に捧げる甘くて真っ直ぐな愛に溢れた言葉が並ぶ。 本人には伝えられなかった想いを歌詞に乗せて泣きながら歌う姿は可哀想だったけれど、それだけ感情を出せることが少し羨ましかった。 俺は本人に伝えることも、声に出すこともできずに終わるというのに。 大和は時々「これ良い曲だから」とこのアーティストのCDを貸してくれることがあった。 大和が勧めてくる曲は沈んだ気持ちに寄り添ってくれるような応援ソングばかりで、こんな恋愛ソングを歌っていたとは知らなかった。 周りの反応を見るに、有名な曲らしい。 隣に座った女の子達は「こんな恋してみたい」と盛り上がっている。 大和もこの曲を聴いて、こんな恋をしてみたいと思ったことはあるのだろうか。 特定の誰かを思い浮かべたことはあったのだろうか。 俺ではない誰かを想って胸を苦しくさせたのだろうか。 もやもやした気持ちを誤魔化すように手元にのコーラを無意味にかき混ぜていると、流れてくるメロディーにふと気付く。 ーーこれを見つけた時、蒼翔のことが浮かんで。 …俺は、この曲を知っている。 ーー俺の気持ち。受け取ってほしい。 歌詞のない、優しく耳に届く音色で。 大和が好きなアーティストだ。 この曲を知らないはずがない。有名な曲なら尚更。 その大和がこの曲を俺に送ってきた理由。 勘違いじゃなければ あの時 俺達は… 1年半経って気付くオルゴールの意味。 あの日、この曲を俺が知っていたなら、 大和は今も俺の隣で笑ってくれたのだろうか。
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