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「俺、大和のところに行かなきゃ。」
もう遅いかもしれない。それでも…
「こっちは気にしなくていいから、蒼翔の気持ちちゃんと伝えてこいよ。」
そう声をかけてくれる矢吹は、何もかも知っていたのだろうか。
足元に置いてあったバッグを手に立ち上がり、さっきまで名残惜しいと思っていたクラスメイトへの別れもそこそこに駅に向かって走りだした。
大和と同じクラスである内山に前もってクラス会の場所を聞いていたから、大和が3駅隣のボーリング場にいることは分かってる。
駅までの道を全力疾走で走る。
受験勉強で鈍っていた身体は思うように動かなくて苦しい。
呼吸が乱れながらも駅に着き、1秒でも早く会いたいと飛び乗った電車は各駅停車。
ゆっくり進む電車がもどかしい。
でもそのおかげで高ぶっていた感情が少しだけ冷静になれた。
スマートフォンでさっきの曲を調べる。
前に大和が貸してくれたCDに収録されていたらしく、俺のプレイリストにもちゃんと入っていた。勧められた曲しか聴いてなかった自分に嫌気がさす。
イヤホンをセットし、確かめるようにその曲を再生する。
流れてきたのは聴き馴染みのある音よりも少しアップテンポで力強くて…正真正銘の愛に溢れた歌。
何十回何百回とネジを回してきたあのオルゴールの曲だ。
答えはここにあったのに気付けなかった。
気付けば、頬に涙がつたっていた。
あの日の俺は、お土産を準備していないことを詫びて「ごめん」と「何も返せない」と言ったはず。
その言葉を大和はどう捉えただろうか。
今日までの大和の様子を振り返れば、告白の返事と捉えたのだろう。
違うんだ。
オルゴールをもらったあの日も
大和に会いたくて電車に揺られてる今も
俺は大和がずっと好きだ。
この恋が叶わなくてもいい。
でも俺の想いを勘違いされたまま想い出にされるのは嫌なんだ。
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