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俳優は一種類じゃない。
スターになる者もいれば、脇役を極める者もいる。
ライバルでありながら、同じ土俵に立って相手を受け入れ、尊重できないと成り立たない不思議な職業だ。
誰かを蹴落として上に昇るわけじゃない。
誰かに蹴落とされて諦めるわけじゃない。
自分との戦いなのだ。
残り半分のミルクレープを口に詰めたところで、背後から肩を叩かれた。
向かいの優也の上目遣いの視線をたどって振り返ると、そこには噂の沢木がいた。
「ねえ、あんた、名前なに?」
たった今肩も叩かれたし、目も合っているから、自分に質問しているのだとわかる。
どうやらさっきのオーディションでの貴紀の自己紹介は、沢木の耳に入っていなかったか、忘れられたかのどちらかのようだ。
まあ人の名前なんて、覚える気がなければすぐに忘れるものだ。
というか、はたち…と沢木が呆然と呟いていたことを思いだし、自分より二歳も年上だったことの衝撃で、貴紀の名前に意識がいかなかったのではないかと推測した。
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