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月に一度の両親との会食時に、貴紀は勇気を出して、劇団マルキノのオーディションを受けて俳優になりたいと伝えた。
母はともかく、父には当然大反対されると思った。
いつも冷静な父だけど、この時ばかりは取り乱して一発や二発は殴られるかもしれないと覚悟までしていた。
だけどそれは杞憂に終わった。
父はいついかなる時も冷静だった。
『受けてみればいい。受かる自信があるならな。ただ落ちたときは、すっぱり諦めろ』
父の返事は簡潔でわかりやすかった。
受かれば俳優になることを許される。
落ちれば今までの約束通り、演劇は大学まで。将来的に父の会社を継ぐ道に進む。
大好きな演劇を、この先の人生をかけて続けられるかどうかが、このたった一度のオーディションで決まってしまう。
貴紀は父の言葉に頷いた。
オーディションを受ける。
落ちたら、おわり。
今まで体感したことのない怖さと、わくわくする気持ちが半分ずつあった。
考えてみれば、元々は大学卒業までの約束だったものが、一度だけでもチャンスが与えられたのだからラッキーだ。
最初で最後の、人生を賭けたチャンス。
貴紀はこの機会を逃すわけにはいかなかった。
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