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 合宿に向かう日の前日は、月に一度の両親との会食の日だった。  高級中華料理店で、三人なのに回る円卓を囲む。 「最近どうだ」  父は食前酒の杏露酒をひと息に飲み干して、いつもと同じ切り出し方をした。  貴紀のほうは、特に変化がなければ「変わらない」のひと言を返すのだが、今回は報告することがある。 「劇団のオーディション、二次選考通過した。明日から三次選考なんだけど、一週間合宿に行ってくる」 「合宿?」  即座に反応したのは、のんびり屋の母のほうだった。  無反応の父は、貴紀が俳優としての道の駒を進めていることに不満を抱いているのかどうなのか、その無表情からは読み取れない。 「一週間、共同生活をしながらの選考なんだって。最終的に十四人から七人以下になるみたい」 「へえ、変わった選考方法ね」  前菜のぷるぷるした皮蛋を咀嚼しながら、母は首を傾げていた。  父のグラスは食前酒からビールに変わっている。 「落ちた時のために、就職活動の準備も始めておけ」  演劇にからっきし興味のない父は冷酷に言い放ち、運ばれてきた好物のエビチリを自分の小皿に取り分けた。  父は貴紀を、大学卒業後すぐには自社に入社させる気がない。  これも貴紀が父からしょっちゅう言われていたことで、自力で就職活動をして一般企業で修行してから戻ってこいという考え方らしい。
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