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 優也と貴紀は同じ大学の同じ学科に所属していて、演劇サークル内ではいちばん親しい友人だ。  今回の劇団マルキノのオーディションは、マメに演劇情報をチェックしている優也がサークルの誰よりも早く知ってみんなに教えてくれた。  優也は、一六五センチの貴紀より五センチほど身長は高いが、脱げば意外にもしっかり鍛えてある貴紀と違って、華奢で、肌も透き通るように白く女性的な見た目をしている。  貴紀も肌の色自体は白いが、それが東洋系の黄みがかった白色なのに対し、優也のほうはベースが青みがかっている。  焼けると赤くなってヒリヒリするからという理由で、優也は七月に入って三十度を超える日が続いても、毎日長袖を着ていた。  そんな優也は、男が八割の大学の演劇サークル内で二割の女子を押しのけ、姫と崇められていた。  貴紀だってこじんまりしたサイズ感と、つやのある黒髪・泣きぼくろの美少女チックな見た目だけを見れば姫と呼ばれてもおかしくなさそうなのだが、実際はその見た目と反し、小・中九年間の柔道で培ったフィジカル・メンタル両面の強靭さと、元来の面倒見の良さがあいまって、周囲からいつしかおかんと呼ばれるようになっていた。  そんな姫とおかんの二人だけが、演劇サークル内の男子ほぼ全員が応募した劇団マルキノのオーディションの一次選考を通過していた。  選考を落ちた仲間たちは皆、マルキノは顔で選んでると文句を垂れていた。
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