だめ人間と構いたがりの演劇の話

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 沢木(さわき)(あきら)の演じる姿を間近で見た瞬間、全身に鳥肌が立った。  圧倒的な高みにいる人間。  天才は存在している。  ライオンのたてがみみたいな金茶の傷んだ頭髪の天辺から、履き崩したスニーカーの足先まで。  恵まれた容姿と情熱と才能で構成された彼の体から、オーラが迸るのがはっきりと見えた。  いつも見ているテレビ画面越しではない、生の舞台に映える彼の姿を容易に想像することができる。  呆気にとられる審査員、諦めのため息を吐く参加者たち。  今、このオーディション会場の空気は俳優・沢木央の手によって、一瞬でコントロールされてしまった。
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