その十二 幸福な結末の先、またはエピローグ

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「ふえぇぇーっ! クリスタも連れて出てくださいよーっ! こら! 早く行け!」  そう叫びながら、黒い扉を開けたのは、毛に覆われた耳をピンと尖らせたヨッヘムだ。  彼の尾にじゃれつきながら、白銀色の毛の子犬が戸口で暴れている。  ある日突然、この隠れ家の庭に姿を現した子犬を、わたしたちは、迷わずクリスタと名付けた。それ以来、クリスタは隠れ家の一員になった。  クリスタは、わたしたちを見つけると、ヨッヘムを無視して一目散に走ってきた。   「今日は、あんまり落としていかなかったな? 足りるだろうか?」 「ウォルト様主催のお茶会で使うのですから、これぐらいで何とかなりますよ」  わたしたちは、庭の灌木の陰で、いまさっき、ここを去っていった、鎧のような表皮をもつ、一つ目の巨大な生きものが、草を食べた後吐き出していった紺色の糸玉のような塊を集めていた。  これが、あの甘く優しい香りを放つ、青色のお茶の正体だったのだ。   「そろそろ、隠れ家へ戻ろう。何だか、聞き慣れない鳴き声が聞こえるだろう?」 「ええ、まだ、距離はありそうですけど――」  わたしは、足元にすり寄ってきていたクリスタを抱え上げ、拾った糸玉をドレスのポケットに入れた。  ポケットの中を探っても、今はもう糸玉の感触しかない。当たり前だけど……。 「ひゃはっ! 鳴き声が大きくなってきましたよ! それに、何頭もいるみたいです! お二人とも急いでください!」  細めに開けた窓から、ヨッヘムがわたしたちを呼んでいた。  黒い扉に向かって走るわたしの胸の中を、かすかな不安がよぎる。  扉の向こうが、見知らぬ場所になっていたらどうしよう――。  そのとき、ドレスのポケットの中に温かな手が差し込まれ、わたしの手を力強く握りしめた。  大丈夫、二人一緒なら、どこへ行こうと何が起ころうと、きっとうまくやっていけるよ――、そんな思いが伝わってくる。  面白そうにわたしを見つめるその人に、わたしはにっこり微笑みかける。  わたしのポケットから、小さくて大きな秘密は消えたけれど、今は、小さくて大きな幸せが詰まっている気がする――。  この幸せを、二人でもっともっと大きく育てなくちゃ!  うわっ! 声が大きくなってきたわ! ぼうっといている場合じゃない! 急げ、急げ!   * * *  お し ま い  * * * ☆最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!  ここまでお読みくださった心優しきあなた様に、感謝と喜びの舞を!  そのうち、スター特典の番外編や後日談でもお届けできたらと思っております。ひとまず、完結!
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