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かえでちゃんが、まだ荒く息をしながらも、じっと猫たちをにらみつけるのがわかりました。
「かえでちゃん、まさか……」
猫まで破裂させるの?
その言葉を吞みこみました。かえでちゃんのなかに怒りのエネルギーが残っているなら、へたに止めるわけにはいきません。そんなことをしたら、そのエネルギーが人間に向いてしまうかもしれないのですから。
あたしは息を呑んで見ていました。
でも、かえでちゃんは猫に向かってサッと手をふっただけでした。
「あっち、行きな。カラスの死骸でも食えばいい」
かえでちゃんの言葉が終わるより早く、猫たちは草むらのなかへと姿を消しました。きっと、カラスの死骸を処分してくれることでしょう。
「もう気がすんだ。奈々、帰るよ」
かえでちゃんがそう言い、きびすを返します。その顔にはもうニタニタ笑いはなく、普通におすまししています。
あたしはホッとしました。
昼間、もしも、かえでちゃんがこらえきれずに一平くんを破裂させ、教室に血の雨をふらせていたら、どうなっていたでしょうか?
当然、匹宮の本家が総動員でもみ消し工作することになったでしょう。
かえでちゃんはもちろんのこと、お目付け役をまかされているあたしも、前と同じように叱られていたことでしょう。
そうしてあたしたちは、また転校しないといけなくなっていたはずです。
とりあえず今日のところは、そういったことを避けることができました。
つかの間の平和を感じて、あたしはかえでちゃんのあとに続いたのでした。
〈了〉
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