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一平くんは、若杉先生のことが好きです。その先生から「仲よくしてあげてね」と言われていたので、この間はこらえたのでしょう。
でも、いまは、そのこらえるためのピンが、ふっとんだみたいです。どすどすと足音をたてて、こっちへ向かってきます。
あたしはあわてました。
「あっ、ごめんね、一平くん。かえでちゃん、ぜんぜん悪気なんてないの。ごめん」
一平くんの前に立ちはだかって、彼を止めようとします。
あっさりとはねのけられました。
一平くんが、かえでちゃんの前に立ちます。
「おうおう、お前よう、悪いと思ってんなら、友だちに謝らせないで、自分で謝れよ」
かえでちゃんは机の上に両手を置いたまま、一平くんを見あげました。その唇の端が、少し吊りあがります。
(うわ、怒ってる)
あたしにはわかります。
かえでちゃんは、なんていうか、キレやすいんです。で、お母さんから、
――腹が立ったら、無理にでも笑いなさい。
と、さとされているのです。
いまかえでちゃんが唇の端を吊りあげたのは、お母さんの言いつけを守ろうとしたからなのです。
でも、かえでちゃんが笑おうとすると、「ニッコリとしたほほえみ」ではなく、「人をバカにしたような笑い」にしか見えないのです。
当然、一平くんが激高します。
「こいつぅ、舐めてんのかっ」
「一平くん、やめてっ」
あたしは後ろから一平くんの腕をつかもうとします。
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