1人が本棚に入れています
本棚に追加
どうしても止めなければなりません。
かえでちゃんのお母さんから、
――奈々ちゃん、かえでのことをよろしくお願いね。
と、くれぐれも頼まれているのです。
だからあたしは必死になって、一平くんの腰にしがみつきました。
「ンのやろうっ、うっせえなっ」
一平くんが身体をひねり、あたしを突き放そうとします。
腰から手が離れ、よろけます。
「だめっ、やめてっ」
あたしはなおも、今度は一平くんの脚にしがみつきます。
「放せってんだよぉっ」
舌打ちした一平くんに、蹴られました。でもなんとかしがみつきます。かえでちゃんのお母さんから頼まれたということもあります。それよりなにより、幼なじみの大事な友だちのためなのですから。
「くそっ、このっ、しつけえなぁっ」
一平くんの脚が乱暴に動き、蹴とばされます。近くの机に背中がぶつかります。とても痛い。それでも、ひざをつきながらでも、しがみつかないわけにはいきません。
かえでちゃんは、机の上に置いた手をブルブルとふるわせ、顔に怒りの笑みを貼りつけています。あたしのほうを見ないことで、何とか自分を抑えているようです。
教室のみんなは、遠まきにあたしたちを見るばかり。だれも助けてくれません。
もう、だめ、と思った、そのときでした。
「あんたたち、何してるのっ」
若杉先生の大声でした。
きっと、誰かが知らせに行ってくれたのでしょう。
若杉先生が生徒たちをかきわけるようにして、あたしたちのほうへやってくるのを見て、
(ああ、助かった)
あたしはへなへなと床に倒れこんだのでした。
最初のコメントを投稿しよう!