あめあめ、ふれふれ、かえでちゃん

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 ことの始まりは、かえでちゃんのひとことでした。 「雨がふればいいんだ」  まずいひとことでした。おまけに、続けて、 「遠足なんて、いらない」  とまで言ったのです。  どちらも、ほとんどひとりごとみたいなものでした。そばにいるあたしにだけ聞こえればいい。そんな感じだったのです。  場所は、五年二組の教室のすみっこ。  時間は、放課後。  つまらなさそうに席に座っているかえでちゃんに、「そろそろ帰ろう」と呼びかけたときでした。  その直前に、「もうすぐ遠足だし」と話をふったのがいけなかったのでしょう。  あたしとしては、ただ、遠足に持っていくおかしを、今日あたり、ふたりで買いにいこうよ、というほどのつもりだったのです。  そのとき、教室に残っている生徒は、半分くらいになっていました。女子が多く、男子は四人だけ。みな、ぺちゃくちゃおしゃべりしていました。教室全体がざわざわしていました。  でも、かえでちゃんが、そのひとことを言ったとたんに、すーっと話し声が引いていったのです。 (え?)  あたしはぎくりとして、あたりを見まわしました。  クラスのみんなが、じっとあたしたちを見ています。そのなかには、クラスで一番気の強い女の子、藤井(ふじい)立夏(りっか)さんと、そのグループもいます。男子の四人は、クラス一の乱暴者、土屋(つちや)一平(いっぺい)くんと、その仲間です。どの子も、あたちたちを見る目は冷たく、 (よそ者め)  と、非難(ひなん)しているかのようでした。
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