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「通学路で佐倉を見て『一目惚れ』して、だから気を惹くために俺なりに考えて、ようやく今日『気持ちを伝えよう』と思ってたんだけど……やっぱりやめておく」
原田の言葉に、衿子は驚いたように目を見開いた。彼が言おうとしていたことはわかったけど、やめておくっていうことは、やはり思っていたイメージと違っていたということだろうか……。
もし告白をされたとしても、どう返事をしたらいいのかわからなかったはずなのに、彼の気持ちがなくなってしまったと思うだけで何故か切なくなった。
ここ数日、知らなかった感情に振り回されてばかりいるーー。
原田はバラを棚に戻すと、今度は多肉植物の黒ポットを一つ取って衿子の手に載せる。
「葉挿ししてから、ここまですぐに成長するまでに、ゆっくり時間をかけて育てたんだ。だから佐倉が自分の気持ちを自覚して、花が咲くまでだって待つよ」
「……そうなるかはわからないよ。だって好きとかよくわからないし」
「大丈夫。ちゃんと佐倉の心に根付いて、新芽が出たのは確認済みだから。ただこれからは……佐倉のイメージを壊さないように、さりげなくアピールをしていくから覚悟して」
さりげなくアピールって何⁈ 衿子は頬を染めて困惑したような表情になる。ドキドキするのに、ワクワクするこの感情は一体何なのかしらーー。
原田は衿子の頭を撫でると、耳元に顔を近付け、
「また雨の日においでよ」
と囁いたものだから、背筋がピンっと伸びて身体中に震えが走る。
あぁ、どうしよう……早く天気予報を確認しなくちゃ。明日が雨ならいいのにって思ってる自分がいることに心底驚く。
「もし私が気持ちを自覚したら……その三本のバラをくれる?」
「じゃあその時は、その多肉植物を持って来てくれる? せっかくだし、もっと増やしたいからさ」
衿子ははにかみながら頷く。きっと私はすぐに自覚する。そして初めての恋と愛を知るの。
こんな私を誰がイメージするだろう。きっと誰も想像出来ないはず。私だって知らなかったんだから。でもそれでいい。
私の恋のイメージは、二人が相思相愛になった瞬間から始まり、広がっていくの。
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