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調べ物は好き。だけど勉強以外のものでこんな衝動に駆られたのはいつ以来だろう。
植物図鑑のコーナーを探していた衿子は、一番奥の棚に植物を示す案内表示を見つけ、頬を綻ばせる。
意気揚々と角を曲がった瞬間、誰かとぶつかりそうになった。
「あっ、ごめん」
「いえ、私もちゃんと見ていなかったから……」
声をかけられて、ようやくその人物が同級生の原田洸哉であることに気付く。
「原田くんじゃない。こんな場所で何してるの?」
衿子は彼の耳のピアスと金色の髪色を見ながら問いかけた。彼の髪色は学校内でも有名で、入学した時こそ黒かったものの、その後は青になったり赤になったりと季節ごとに変化を遂げていた。
しかし元々自由な校風のため、勉強を怠らなければ問題はないらしい。
私はやる気にはならないけどねーーだってやる意味がわからないし、興味もない。髪を染めたり、ピアスの穴を開けて好奇の目に晒される方が嫌だった。
「佐倉は?」
まさか聞き返されるとは思わず、怪訝な顔になる。なんで質問に答えてもらってないのに、私が先に答えなきゃいけないんだろう。
とはいえ黙っているのもおかしな気がして、衿子はバラの本を探しながら口を開いた。
「バラの本を見たくて」
そしてカバンの中から先ほどのバラを取り出すと原田に見せる。
「で? あなたは何か探しもの?」
「いや、俺は待ち伏せ」
こんな場所で? そう考えてから、ある想像をして眉間に皺を寄せる。なるほど、女の子との待ってるのね。
「そうなのね。本を探したからいなくなるから、ちょっと待ってね」
そう言って再び本棚を探し始めた衿子だったが、突然原田に背後から棚側に追いやられてしまう。
「あの……原田くん。なんだか近いんだけど」
「ストロベリーアイス」
「えっ……」
「そのバラの名前」
ゆっくり振り返ろうとした瞬間、原田はサッと体を離して両手を上げる。まるで何もしていないと訴えるように。
原田は不敵な笑みを浮かべると、何も言わずにその場を去っていった。
今のって何……? 待ち伏せって言ってなかった? それとも待ち伏せた後だった? 衿子は首を傾げ、それから原田が言っていたバラの名前を調べ始めた。
バラの図鑑を手に取り、索引からストロベリーアイスを見つけ、ペラペラとページを捲っていく。
「本当だ、ストロベリーアイスって書いてある……なんか美味しそう……」
驚きのあまり独り言を呟いてしまい、慌てて両手で口を押さえる。
それにしたって、どうして彼がバラの名前を知っているのだろう。花には縁がなさそうな感じなのにーーそう思ってから原田の髪の色を思い出し、つい吹き出してしまう。
彼の髪色は、花のように鮮やかじゃない。縁がないわけじゃないみたい。衿子はクスクス笑いながら本を閉じると、元の場所に戻した。
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