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 趣味は勉強、特技も勉強。勉強は嫌じゃないし、趣味と言えるようなものも特にない。部活に励むわけでもなく、心から夢中になれるようなものにもまだ出会えていないのが現状だった。  今の状況に不満はない。良い成績をとっていれば何も言われないものーー。  そんなふうに思いながら毎日自習室に籠っていたが、今日は初めてそんな気分にはならなかった。  ホームルームが終わると、衿子はいつものように自習室に向かう。しかし扉の前まで行った途端に(きびす)を返し、渡り廊下まで早足で進んでいく。  昨日家に帰ってからも、あのバラのことが気になって眠れなかった。一体誰が誰に渡そうとしていたんだろう……私なんかが持ってきちゃったから、困っている人がいるかもしれない。  その時に思い出したのが、校舎の裏にある花壇と温室だった。園芸部が育てていて、文化祭で販売される花や苗、それに多肉植物などをそこで育てていると聞いたことがある。  園芸部の人ならバラのことを知っているかもしれないーーそう考えた衿子は、今日は一日そわそわしながら過ごしていたのだ。  二号館と三号館の間にある細い通路を曲がり、初めて歩く場所に緊張しながら、土の上にかろうじて置いてあるコンクリートブロックの上を、一歩ずつ踏み込んでいく。  木々の間から顔を覗かせた衿子の目の前には、いくつもの花壇と畑、そしてガラス張りの温室が現れた。 「うわぁ……キレイ……」  今まで学校の表側ばかり見ていたけど、裏側にはこんな素敵な場所があるなんて知らなかった……衿子はゆっくりと花壇に近寄っていく。  そこにはいくつもバラが咲いていた。淡く漂う香りを楽しみながら歩いていると、ようやくストロベリーアイスを見つける。  やっぱり園芸部の花だったんだーーそう思った時だった。 「佐倉?」  名前を呼ばれて振り返ると、温室の中から原田が顔を覗かせていた。 「原田くん……? えっ、どうして……?」 「だって俺、園芸部だし」  衿子は目を(しばた)き口を閉ざした。それを見ていた原田は口元に小さな笑みを浮かべると、温室の外に置かれていたホースを伸ばし始める。 「原田くんが園芸部だなんて、ちょっと意外だった」 「よく言われる」 「花が好きなの?」  原田はホースの先が繋がれている蛇口を回して水を出すと、花に水をまいていく。 「花は好きだよ。ただそれだけじゃなくて、いつかは自分で新しい花を作り出したいんだ」 「交配ってこと?」 「そう。ちなみに俺の髪もいろいろ混ぜて交配してるんだ」 「……ただの金髪じゃないの?」 「美容師の姉に交配してもらってる」  あまりにも自然に突拍子もないことを言い出すから、衿子は思わず笑い出した。
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