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* * * *  あれから三日が経ち、ようやく雨の日がやってきた。朝からずっとそわそわしていた衿子は、ついチラチラと原田を見てしまう。そんな自分に気付いて、慌てて視線を逸らす。  窓際の前から三番目。雨で外はどんよりとした色なのに、彼の髪色のせいか色白に見える肌とキレイな顔立ちに見惚れてしまう。  こんなに目が離せなくなるなんて、まるで催眠術にでもかけられたみたい。  今日は一日どんよりとした曇り空だと、気象予報士が言っていた。私の心も雲に覆われたまま、姿を現そうとはしなかった。 * * * *  ホームルームが終わると、それぞれのペースで教室を後にする。原田はすぐに立ち上がると、衿子を振り返ろうともせずに後ろのドアから出て行った。  すぐに追いかけたい衝動をグッと堪えて、心の中で十秒数えてから静かに立ち上がり、すでに姿の見えない原田を追うように昇降口へと向かう。  あの日と同じルートを通って、時折傘をすぼめながら温室へと辿り着いた。晴れた日と違って温室は輝いていなかったが、どんよりとした雲の下、たくさんの水滴に包まれた姿は、どこか幻想的にも思える。  ゆっくりと温室に近づいて行くと、突然ドアが開いて、中から現れた原田が衿子に向かって微笑んでいた。 「傘が見えたから、もしかしてと思って」 「だって……温室を見るなら雨の日なんでしょ?」 「それだけ?」 「それだけよ」  原田は不敵な笑みを浮かべ、衿子を招き入れるように体を端に寄せる。 「じゃあ中に入る?」  ドアの向こう側には、所狭しと並んでいる緑色の植物が見える。興味を惹かれるのに、この先には原田と二人きりだと思うと二の足を踏んでしまう自分もいた。  普段は家族と会話するくらいだし、面白いことが言えるわけじゃない。何を話せばいいのかわからないし、会話が続く自信もない。  案の定、がっかりな展開になって、嫌な記憶が増えるだけにはならないだろうか。  やっぱり行かなければ良かったと思うくらいなら、このまま帰る方がいいんじゃないかしら……。 「佐倉?」  名前を呼ばれてハッと我に返る。 「温室を見にきたんだろ? 中に入らなくていいのか?」  あぁ、そうよ。温室を見に来たのに、会話を気にするって何を考えているのかしら。  意を決した衿子は、温室の中へと足を一歩踏み込んだ。
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