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 湿気のある室内は、壁沿いに棚が並べられており、多くのグリーンが置かれていた。その中でも特に多肉植物のコーナーが気になり、引き込まれるように近くに寄って行く。  花カゴの中には黒ポットに植えられた多肉植物が敷き詰められている。だがそれより衿子が気になったのは、土が敷き詰められたトレーの上に、葉がいくつも並べられたものだった。 「これって何をしてるの?」 「あぁ、多肉植物を増やすための作業。葉挿しっていうんだ」 「葉挿し?」 「そう。こうして乾いた土の上に葉を並べておくだけで根が出てきて、そうしたら土をかぶせて霧吹きで水をやって、一カ月くらいで新しい芽が出てくる」  衿子の頭にふと、机の上の多肉植物が思い出される。もしかしたら、あの子も増やせたりするのだろうかーーそのことを聞こうとして原田の方を見た瞬間、二人の視線が絡まり合う。  時が止まったように固まった衿子に、原田はニヤッと笑いかけた。 「やっとこっち見た」 「えっ……?」 「気付いてなかった? ずっと佐倉を見てたこと」 「な、何言って……」 「佐倉っていつも周りに興味なさそうにしてるからさ、どうやったら俺に気づいてもらえるか、ずっと考えてたんだ」 「ちょっと待って……あの、話がよくわかんない……」 「ゆっくり考えていいよ。でも結構簡単な答えだと思うけど」  原田はそばの棚に手を伸ばし、花瓶に生けてあった三本のバラの花を手に取る。それは靴箱に入っていたものと同じ"ストロベリーアイス"だった。 「やっぱり原田くんだったんだ……」 「バラって、本数で意味があるんだって。知ってる?」 「知らない」 「一本なら『ひとめぼれ』『あなたしかいない』」  靴箱には一本のバラが入っていたーー途端に衿子は何故か頬が熱くなり、唇をギュッと結ぶ。  それってもしかしてーー! 「三本は何だと思う?」  言いかけた原田に背を向けると、両手で思わず耳を塞ぐ。それを見た原田は必死に笑いを堪えていた。 「もしかして、答えが見つかった?」 「で、でも……それが合っているのかわからないし……」  俯いた衿子の耳に、原田の優しい声が響く。 「大丈夫。その反応を見れば間違えてないことはわかるから」 「だとしても、この後自分がどうしたらいいのかもわからないの……」 「……あのさ、佐倉は恋したことある?」  衿子は顔を上げて首を横に振ったが、原田の顔を直視出来なかった。 「ない。だってイメージじゃないから」 「俺は逆。そういうイメージで見られがちだけど、実際はないんだ」  確かに意外だった。見た目は遊んでいそうに見えるし、それなりにモテるような気がする。でも、そうじゃないの?
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