caseA 草木好子 植木編

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 植木さんとの同棲生活が始まってから数週間で、わかった事がある。 「おかえりなさい」と言ってくれる人がいるのは、悪くない。  正確には人ではないのだけれど。 「ただいまー」 「お帰りなさい、好子さん」  今日も笑顔で出迎えてくれる植木さん。  なぜ植木さんが咲いたのかは謎だけど、あの花屋のご婦人が言ったように、なぜか癒される。  植木さんには、着替えの間だけ布をかぶってもらっている。自分の腕(枝?)で取ることもできるけど、覗かれたことは一度もない。とても紳士だ。  着替えが終わると布を取り、私をずっと見ている。  ……きっと、植木さんなりに見守ってくれているのだろうけど、わりと恥ずかしい。 「すみません、好子さん」 「なに?」 「そろそろ、水をいただけませんか?」 「ああっ、ごめん、忘れてた!」  植木さんの食事は水。朝と夜の2回、霧吹きで水をあげる。  水をあげると、とても気持ちよさそうにするから、もっとあげたくなるけど、あげすぎはやはりダメなようで、一度止められたことがある。  そろそろ、植物用栄養剤でも買ってあげようかと思っている。  今度の週末に、ホームセンターでも行ってみよう。  ──週末、買ってきた植物用栄養剤をあげたら、植木さんはとても喜んだ。 「ありがとうございます! 元気が湧いてくるようです!」  なんとなく、若々しくなった気がする。  ……気がするだけだけど。  そしてその日の夜…………。  ううーーん、なんだか寝付けないなぁ。  時計を見ると、午前2時。明日も休みだから問題はないけど……。  私は、水でも飲もうと起き上がった。  植木さんは……。 …………寝てる。  植物でも寝るんだ。  ふふっ、寝顔見たの初めてかも。  ちょっと風にあたろうと、ベランダに出ようとした時──── 「えっ!?」  見知らぬ男が、ベランダでうずくまっていた。  ド、ドロボー!?  私は、すぐに後退りした。  窓を……!   窓を閉めようとしたが、男が何かを挟んできて間に合わなかった。  私は身の危険を感じて、部屋の奥に逃げた。  男はナイフらしきものをチラつかせて、室内に入ってきた。 「う、植木さん! 植木さんっ……!!」  植物の植木さんに、何ができるかはわからないが、とにかく大声で植木さんを起こした。  私が人の名を叫んだから誰かいると思ったのか、男は一瞬部屋を見回した。そして、私のほかに誰もいないとわかると、男はこちらに向かってきた。 「た……助けて……。助けてよ! 植木さん!!」
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