caseA 草木好子 植木編

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 私は、あまりの出来事に呆けてしまっていた。  そうだ、植木さんの植木鉢を直さないと……。  警察が来ている間、私は植木さんの足元に布をかけておいた。  変な詮索をされたら、説明が長くなりそうだったからだ。  植木鉢のかけらを拾いながら、さっきまでの事を振り返っていた。  植木さんが動いていなかったら、私は…………。 「植木さん…………。あの…………。  ありが、とう…………」  緊張の糸が切れ、私はポロポロと泣いてしまった。 「あと、ごめんなさい…………。植木鉢、割れてしまって…………。  明日、新しいのを買いに行くから…………」  植木さんは、ポンポンと、優しく頭を撫でてくれた。  私は、年甲斐もなくわんわん泣いてしまった。  その間、植木さんは何も言わずに、ただ私の頭を撫で続けてくれた。植木さんの足の根を戻さなきゃいけないのに、私は一晩中泣いてしまった。  そして、夜が明けた。 「ご、ごめんなさい……!」  私は、寝不足と涙で腫れ上がってしまった顔で、植木さんに謝り倒した。  結局、朝まで植木さんを放置してしまい、少し萎れた感じになっていた。  慌ててバケツを用意し、土をかき集め、植木鉢を用意できるまで入っていてもらう事にした。  どうやって植木さんを担ごうかと思案したけど、人型植物は膝まであるので、まず椅子に座らせてからバケツに足の根を入れる事でスムーズにできた。  そして大急ぎでホームセンターへ向かい、植木鉢を買ってきた。  先程と同じ要領で、植木鉢に入れ替える。 「ありがとうございます、好子さん。  これで、元気になれますよ」  お礼を言うのはこっちの方なのに、植木さんは丁寧にお辞儀をした。  その日からの私は、植木さんをとても丁重に扱うようになった。  ……といっても、やる事はそんなに変わらないのだけど。  今までは、毎日の水と、時々栄養剤をあげればいいと思っていたけれど、たまに土を入れ替えたり、植木鉢をきれいにしたりなど、思いついた事はできるだけやってきた。  そして、数十年が過ぎた──────
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