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友だちが手を振っている。
その向こうに牛がいる。
友だちは牛を気にするそぶりすらない。あたしはそんな町に住んでいる。
この町にはいちおう五千人が住んでいるらしい。高校やホテルなんかがある国道沿いからちょっと離れると、見渡すかぎり草ばかりだ。見た目は村だ。それでも、広いから五千人住んでいるらしく、町、なのだという。
ああ、そうそう。牛、草、それ以外にもうひとつ、この町にはめずらしいものがある。それが珍しいことだと知ったのは、遠い「街」に住む伯父さんがこの町に来たときだ。
「男の子、みんな野球して遊んでるね。珍しいね、イマドキ」
とのことだ。
知らなかった。男子はほぼみんなが野球するもんだと思っていた。
まあ、つまるところ、あたしが住んでいるのは牛と野球少年と一面の草を見るばかりの青くさい町だ。
『今日と明日おこなわれる半別夏祭りの準備が昨日行われ、約六千個の提灯が取りつけられました。昼から行われるパレードには町外からの観光客を含め、五千人の人出が予想されています』
NHKのニュースが点いていた。お父さんの日課だ。もうすぐ満足して「よし、でかけるべ」と、膝をたたく。
ニュースは天気予報に移った。
「よし、でかけるべ」
ほら言った。
小学生の六年間、あたしは週末が苦痛で仕方なかった。
「亜衣ぃ、水筒持ったかい? ほら、帽子」
まだ朝の七時だ。
「……持った。……かぶった」
なんであたしまで。いつもそう思っていた。
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