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変わった関係
それから、どれくらいが経っただろうか。
城の医務室に運ばれたイアンが目を覚ましたのは、日が暮れ始めた頃だった。
彼が、ゆっくりと瞼を開けると医務室の白い天井が目に写り、医務室で寝かされいる事に気がつく。
(ん…ここは…城の医務室か。確か俺は図書館で戦って…。それから…)
イアンは、天井をぼんやり見ながら、あの後何があったかを思い出す。
(そうだ!セリスの呪いは!奴はどうした!?)
ガバッと上体を勢いよく起こすと、彼の背中と脇腹にズキッと痛みが走った。
「ッてぇ…!」
歯をくいしばり体を抱えて、痛みの波が引くのも待っていると、医務室のドアがガチャと開いた。
入って来たのは、セリスだった。
彼女は、暫くイアンの側についていたが、一度看病する為の道具を、取りに行き丁度帰ってきた所のようだ。手にはタオルと桶を持っている。
セリスは、イアンが起きているのを見ると、パタパタと駆け寄った。
「あ!イアン、起きたんだ。って大丈夫!」
「…あぁ、大丈夫だ。それより、あれからどうしたんだ?」
「そう?…。あれからね…」
セリスは、イアンがの背中を拭きながら、あの後の事を話す。
自分一人ではイアンを城まで運ぶことは出来ないし、ユーティリアの事もあるから、通信用魔法具を使って応援を呼んだ事。
ユーティリアは城へ連れていかれ、質疑した後、牢屋に入れられた事。
魔法書は、今後城で保管することになった事、全てを話した。
「そうか…。面倒かけさせて悪かったな悪かったな。」
「ううん、イアンは私の為にやってくれたんだし、気にしないで。…とにかく、イアンの目が覚めて良かった…。暫く安静だって言ってたよ。」
「分かった。ところでセリス。」
「何?痛かった?」
「いや、それは平気だ。その‥…お前の呪いが解けたって事は‥‥…、お前の一番大切な人とやらは俺だと考えて良いのか?」
「な、何を急に言い出すの!」
珍しくイアンが口ごもりながら言うと、セリスは解りやすく狼狽えた。そして、その拍子に、彼の背中を拭いていた手元が狂った。
「いっ!」
「あ!ごめん!…イアンが、急に変なこと言うからだよ!…」
「別に変な事じゃないだろ。…で、どうなんだ?」
(ど、どうしよう……!なんて言えば良いの!?…幼馴染みとして?そうだ、そう言うことにしよう!)
「ちなみに幼馴染としてって言うのは無しな。」
「!」
セリスが彼の背中を拭きながら、何とか誤魔化そうと考えいると、まるで心を見透かしたようにイアンが先制した。
ギクッと体を強張らせるセリスを見て、イアンはやはりなと内心で思う。そして、彼女に背中を向けたまま、吐露するように話し出す。
「なぁ、セリス。そのまま聞いてくれ。俺は、お前が好きだ。子供の時からな。」
「へ…?好き?また、そんな冗談を」
「冗談じゃないし、嘘でもない。本気だ。もう幼馴染みって立場じゃ満足出来ないくらいにはな。」
「!」
「返事は急がなくても良い。待つのには慣れてるからな…」
「わ、私も!イアンの事が好き、だよ。…いつからか、一人の男の人として好きになってた…」
イアンは、直ぐには返事が出来ないだろうと気長に待つつもりで居た。
しかし、告白の返事は直ぐに帰って来た。
その事に驚き、イアンは思わず振り向いた。
「ふふ。イアン、顔真っ赤」
「っ、……うるせぇ、見るな。そう言うお前だって赤いぞ。」
セリスに指摘され、慌てて顔を手で覆い隠すも、耳まで赤くなった顔は隠しきれていない。
長年の思いが叶ったのだ、嬉しくないはずはない。イアンは、嬉しさで頬が緩みそうになるが、どうにか抑える。
「じゃあ、俺達両思いだったのか」
「そうだよ!だから、早く治してよね!」
セリスは、イアンの背中を軽く叩いた。
「いでで!あぁ、そうするよ。いつまでもお前に心配かけるわけにもいかないしな。」
一通り終わり薬とタオル、桶を片付け医務室を出ようとしたが、ドアの前で立ち止まって振り返る。そして、照れの混じった満面の笑みを浮かべる。
「色々ありがとう、イアン!こ、恋人として、これからもよろしくね!」
それだけいうと、セリスはバタンとドアを閉めて、パタパタと逃げるように去っていった。
残されたイアンは、暫く呆然としまた顔を赤くしていた。
(なんだ、あれ。可愛すぎるだろ!)
そして二人は、こう思うのであった。
(イアン(セリス)と恋人になれたのも、呪いのおかげだし悪くなかったかも(な)…。)
終わり。
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