一組の幼馴染み

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一組の幼馴染み

エルヴェリア王国。 この国は、簡単な日常魔法なら誰もが魔法が使える魔法王国である。  街並みは、自然豊かで至る所に緑があり、水路が張り巡らされたキラキラと輝き美しい。  城下町も、様々な商店が多く活気があり盛っていて、町民達もみな元気に暮らしている。    そんなエルヴェリアの王都には、様々な植物に囲まれたエルヴェリア城がある。 その城の医務室に、大声が響き渡った。 「はぁ!? 呪いをかけられた!?」 とベットの上で横になったまま、素っ頓狂な声を上げたのは、前髪を左側で七:三風に立ちあげている菫色の短髪、紫色の目をした男だ。 彼の名前はイアン=ヴァイレン。年の頃は二十三。 宮廷魔法士として城に仕えている。 「……うん。そうみたい。って、そんなに大声を出すと、傷に障るよ!」 と、イアンを慌てて宥めるのは、セミロングの暗緑色の髪を、後頭部で一つに結い、黒い瞳といった風貌の女だ。 彼女の名前はセリス=ミライル。年の頃はイアンと同じ二十三。彼女もまた宮廷魔法士だ。 そして、イアンとは幼馴染みでもある。  二人共に城から支給される群青と金色のジャケットを着用しており、イアンはそれに黒いズボン、セリスは白いズボンといった装いをしている。   「それを何で直ぐに言わなかった!」 「だ、だって……イアンの方が大怪我だし、辛そうだから。それに比べて私は何の異常もないから」  突然、血相を変えて大声で怒り始めたイアンに、セリスはたじろぎながらも答える。 「俺の方は外傷だけだ。治療すれば治るんだよ。だけど、お前のは違うだろ。呪いだぞ、呪い! 解ってるのか!」 「わ、解ってるよ! でも、目の前で倒れられたら、誰だって、そっちを心配するよ。  少なくとも、私にはイアンより自分を優先するなんて出来ないよ」  眉を下げ悲しそう表情をする彼女を見て、イアンは平静を取り戻すと、ため息をつきながら頭を掻いた。 「はぁ……。怒鳴って悪かったな。でもな、俺と違って、お前のは下手すると命に関わる事なんだぞ。もっと真剣になってくれ……」 「うん。そうだよね。ごめん」  セリスは、イアンに注意され申し訳なさそうに謝る。 ♢ 時は数時間前に遡る。  この日、イアンとセリスは城で、宮廷魔法士の業務の一つである書類仕事を行っていた。  宮廷魔法士とは特別に日常魔法以外の攻撃魔法などの使用を許された者達の事である。  背後に大きな本棚が並ぶ執務室で、机に向かい、カリカリとペンを進ませる二人。  セリスの机には書類が山のように積み上がっている。それは彼女が怠けて溜めた物ではなく、殆どは他の魔法士達から回された物である。  彼女は、書類整理が得意で、良く他の仲間から頼まれるのだ。  そんな書類の山を黙々と片していくセリスに、イアンは苦笑する。 「お前な、少しは断れよ」 「でも、頼られてるし。別に書類仕事嫌いじゃないし」 「じゃあ、少しこっちに回せ」 「でも、イアンだって、それなりに結構あるじゃん」 「俺の方がまだ少ないし余裕ある」 「そっか……じゃあ、お願い」 「ん」  セリスは、自分の机から書類の一部を取ると、イアンの机の上に置き、自分の机に戻る。置かれた書類をチラリ見たイアンは、短く返事をした後、再びペンを走らせる。  そうして、一区切りがついたタイミングで、肩を回しながら立ち上がった。 「一旦休憩にするか」 「そうだね」 「珈琲(コーヒー)でも飲むか?」 「うん」 「砂糖は三つだったよな?」 「そうだよ」  セリスもペンを起き、ぐーっと伸びをする。その間にイアンは、同室内の休憩スペースへと足を運び、二人分のコーヒーを用意する。  そして珈琲を淹れたカップを持って、セリスの居る所まで戻った。 「ほら」 「ありがと。……ん、美味しい〜」 「それは良かった」  イアンが珈琲の入ったカップをカップを手渡すと、セリスは両手で受け取った。  一口飲み、自分好みの絶妙な甘さに彼女は、頬を綻ばせた。  そんなセリスの様子を見たあと、イアンは自分の椅子に座りカップに口をつけた。  その時、セリスが徐に口を開いた。 「ところでさイアン、イアンも今週末休みだったっけ?」 「ん? そうだけど……、それがどうかしたのか?」  二人がそんな他愛ない話をしていた時だった。  突然、執務室の扉が強くノックされた。  イアンが扉を開けると、そこには伝達役の者が息を切らして立っていた。  その様子に、只事じゃなさそうだと感じたイアンは眉を潜める。 「一体どうした。何かあったのか?」 「敵国が進軍してきた模様! 敵は城門付近まで到達しようとしています! 他の魔法士は既に戦闘中、至急お二人も戦闘に参加せよとの事です!」 「分かった。直ぐに出る。聞いたとおりだ。行くぞ、セリス」 「うん!」  こうしてイアンとセリスは、急遽戦闘に駆り出される事になったのだった。  二人は飲みかけの珈琲を執務机に置くと、急いで部屋を出て、城外へ向かった。  すると、既に混戦状態になっていた。  セリスとイアンは、城門前につくと、それぞれ少し離れた場所で加勢をする。  しかし敵国は圧倒的に人数が多く、倒しても倒しても拉致があかない。  セリスに疲労の色が見え始めた。  その時だった。  セリスに出来た隙をついて、死角から敵魔法士の一人が、彼女めがけて黒い靄のような物を放った。 (しまった!)  そう思った時には時既に遅く、気がつけば、靄は目前にまで迫っていた。  そして、吸い込まれるようにセリスの体の中に入っていった。 「かかったな、それは呪いだ。お前は徐々に身体が動かなくなっていく!」 「!? (そんな……!)」 「これ終わりだ!」  靄がセリスの体に入ったのを見た、敵の魔法士は高らかに言い放った。  敵の魔法士の言葉にセリスは戸惑う。  そんな彼女に追い討ちをかけるように、敵の魔法士は容赦なく魔法のエネルギー弾をセリスに向けて放った。  動揺していたセリスは反応に遅れる。自分の持つ防御魔法である光の盾(ライトシールド)を発動させようとするも間に合いそうにない。 (もうダメだ。ごめんねイアン。)  セリスは死を覚悟し目をギュッと閉じた。 しかし、敵の魔法はセリスには当たらなかった。 ドサッと音がして、セリスが恐る恐る目を開けると、目の前にはイアンの背中があった。  彼は、自分の方の敵を粗方(あらかた)蹴散らした後、セリスの所に駆けつけたのである。  そして、彼の放った雷撃は、セリスを襲おうとした敵の魔法士を撃ち落とした。 「無事か! セリス!」 「うん。平気」  イアンは振り向き、焦ったようにセリスに聞くと、彼女は微笑んで答えた。セリスの返事に、イアンはホッとしたように息をついた。  その時、イアンがトドメを刺したと思った敵の魔法士が、苦し紛れに魔法弾を一発放った。  魔法弾は次第に大きくなり、セリスの前に居るイアンの背中に着弾すると破裂した。 「がっ! ッ……クソ、まだ生きてたのか……」  イアンは背中に強い衝撃を受け、前に倒れかけるも何とか踏み留まる。  そして、体を捻り再度電撃を放った。  この時、セリスが見たイアンの背中は、焼け(ただ)れ、流血も酷く群青色のジャケットも黒く染まっていた。  セリスは、あまりの(むご)さに顔を青ざめさせた。  敵の魔法士が息絶えたのを見届けると、イアンはとうとう立っていられなくなり、膝から崩れ落ちた。  同時に奇襲による他の場所の乱闘も終わりを迎えていた。
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