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解呪
セリスが開いたページには、黒字で呪いを打ち消す呪文と魔法陣が書いてあった。
それから、魔法陣の上には赤い文字で、一番大切な人の魔力を込めよの一言がある。
(最も大切な人の魔力…。一番大切な人…。ギルバードさんは大切な人としか言ってなかったけど…。いや、それより…。)
セリスはチラリとイアンを見る。
止血はしたが、依然として顔色が悪く苦しそうな顔をしている。貧血のせいもあるんだろうが、きっともう魔力がないんだろうと、セリスは思う。
彼のことだ、魔力が必要だと言ったら無理にでも魔力を振り絞るだろう。そうなれば更に無理をさせることになる。
それはセリスが望むことではなかった。
(でも、こんなになるまで頑張ってくれたのを無駄にもしたくない…)
セリスは、これ以上の無理をさせたくない気持ちと、自分の為にここまでしてくれた事を無駄にしたくない気持ちで、悶々と悩む。
「…セリス?どうした?なんて書いてあるんだ」
「!ううん、ない!ね、ねぇ別の日にしない?古代魔法文字で読めないから、調べてからにしよ!きっとまだ大丈夫だよ!」
黙っているセリスを怪訝に思ったイアンは、セリスに声をかける。それは心配を含んだ声色だった。
イアンの声にハッとし、セリスは魔法書を後ろに隠しながら言う。それにイアンは更に訝しむ。
「…はぁ!?お前、また何言ってんだ。そんなの早い方が良いだろ…って何で隠すんだよ。…俺なら読めるかもしれない、良いから貸してみろ…。(何か隠してるな、こいつ)」
「ダ、ダメ!」
手を出してくるイアンに、セリスはブンブンと首を振りながら後ろに下がる。
「うっ…!」
「!イアン!?大丈夫!?」
「なんてな…」
頑なに拒むセリスに、イアンは苦しむ素振りをしてみせる。すると、案の定セリスが慌てて近寄った。
イアンはニヤリと笑い、彼女からスルリと魔法書を取った。
「あ!もー!騙したの、イアン!本気で心配するから、そういうのは止めてよね!」
「騙してはない、体中痛いのは本当だからな。それに、お前が素直に渡さないからだろうが。(やっぱりな…。セリスのやつ、俺の体の心配して…。この魔法陣に魔力を入れたら良いんだよな。)
憤慨するセリスを後目に、イアンは、彼女が見ていたページに目を通し納得した。そして、無言で魔法書に書いてある魔法陣に魔力を流し始める。
「えっ!ちょっと、イアン!何やってるの!?」
(セリスの一番大切な人って言うのが、俺とは限らないんだよな。こればかりは祈るしかないか…)
セリスが止めるも、イアンは構わずに続ける。彼女の一番大切な人が自分であって欲しい、そう祈りながら。
魔力を注ぐこと数分、次第にイアンの顔には汗が滲みだし、険しい表情になっていく。
(…ヤバいな…目眩してきた。俺の魔力と意識もう少し保ってくれ。アイツの呪い解くまでは。)
「イアン!もう良いよ!それ以上はイアンが保たないって!」
「良いから……待ってろ。多分、もう少しで…。」
イアンの様子に気が付いたセリスは必死に止める。だが、イアンは魔力を入れるのを止めようとはしない。
魔法書も、なかなか反応を示さない。
(くそ…俺じゃダメなのか?)
辛抱強く続けていたイアンに、若干諦めの色が出てきた時、魔法書が光った。
イアンは魔力を込め続けながら、セリスを呼ぶ。
「(来たか!)セリス、早く呪文読め!」
「う、うん!」
セリスが急いで呪文を読むと、青い光が魔法書から放たれてセリスを包む。そして、セリスの胸のアザは消えた。
「成功…したのか」
「うん。そうみたい。アザも消えたし。」
「そうか。良かっ…た。」
「イアン!?」
彼女の痣が消えたのを見届ると、安心したのか、イアンの体はグラリと横に倒れた。
セリスが慌ててイアンの様子を確認すると、意識はないが呼吸はしていた。
(良かった…息はしてる。生きてる。…無理させすぎたよね、ごめんねイアン。)
セリスは気を失っているイアンに心の中で謝った。
(さて、どうしよう。私一人じゃ、二人を城まで運べないし…)
少しの逡巡の後、セリスは衣嚢から、楕円のしたペンダント形をした通信用魔法具『スペクトラムナーブ』を取り出した。そして、起動させ、ボタンを押してグレースに繋いだ。
《セリス?どうしたの?今、隣町の図書館何でしょ?》
《なんで知ってるのグレース…。まぁ、それは良いんだけど。今、城に騎士隊の人達は居る?お願いしたい事があるんだけど…。》
《何人か居るよ。》
《じゃあ、図書館まで来てもらえるよう伝えて。あと出来たら馬車の使用許可も取ってほしい》
《ん、了解。伝えとく。》
通信が終わると、グレースは通信を切った。
騎士達が着くまでの間、セリスは、気を失っている、イアンに膝枕をしながら待っていた。
小一時間ほどして、図書館に数人の騎士が到着した。
「セリスさん、呼びました?」
「あ、わざわざすいません。来てくれて、ありがとうございます。あのですね、彼処で倒れてる男の人を、城までお願いします。」
「分かりました。イアンさんの事はどうしますか?」
セリスは、ユーティリアを指差しながら言うと、騎士の一人は頷いた。
「馬車は一緒に来てますか?来てる用なら、私が連れて帰ります」
「あ、はい。来てます。でも、大丈夫ですか?気を失ってるようなので、結構重いのでは‥…」
「大丈夫です。此処から外の馬車まで行くくらいなら私だけでも運べます。」
「そうですか。じゃあお願いします。」
騎士達は、セリスから騎士二人で引き受け引きずると馬車の乗せた。
それを見て、セリスもゆっくりと立ち上がると、イアンの腕を肩を回し、少し引きずるように馬車まで向かった。そして、全員の準備が整うと城に向け出発したのだった。
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