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狭くて暗い階段を降りるとムッとした空気が立ち込めていて入口のところにライダースジャケットを着た男性がチケットの確認をしていた。菜々は前回来た帰りに買ったチケットを差し出す。ライダースジャケットの男性はチケットを三分の一ほど返してきた。
「ワンドリンクだから。二十歳未満はお酒、禁止ね」
菜々は十七歳だ。高校三年生。『フィッシィー』というバンドの追っかけをしている。今日はライブに来た。『フィッシィー』は三バンド出る中、最後に出る予定である。
ライブハウスのステージとは反対側にバーがあった。金髪の男性がシェーカーを振って客にカクテルを出している。菜々はアイスティーを頼んだ。紙コップに入ったアイスティーを渡された。
ライブハウスの中は立っている人と床に座っている人が半々で、皮の匂いと香水の匂いが立ち込めている。ライダースジャケットを着ている人が多いのとお洒落な人が多いせいだろう。
菜々はアイスティーにガムシロップを入れストローでかき混ぜた。一番前の端にあるスピーカーの前に座る。ここはいつも見る場所だ。
『フィッシィー』はいつもこのライブハウスを使っているわけではない。比較的、渋谷にあるここが多いが名古屋にも行くし大阪にも行く。菜々は追っかけをするためにコンビニでバイトしてお金を貯めていた。お年玉も全部バンドのために使っている。
あと二十分で始まると思っていると、後ろから肩を叩かれた。同じ追っかけの颯太だ。颯太は大学一年生。ここで顔見知りになって話すようになった。颯太も『フィッシィー』のファンだ。
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