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木の声が聞こえる。
幼いころは、親や友達に何度説明しても理解されず、みなに笑われてきた能力。職人同士ならまだ受け入れられやすい一方で、それは時に、やっかみの種にもなる。
だから今では、滅多に人に言ったりはしないし、普通に「腕のよい職人」として、作った家具や器が売れれば、それで問題なかった。
だから、少女が木の器にそっと触れて、耳を近づけたときにも、「聞こえない」という文句を予想していた。
それだけに。
「――ほんとだ。木はうたっているんだね」
少女が目を閉じたままつぶやいた言葉に、俺は驚きをおぼえた。
「……歌っている?」
俺はバカみたいにおうむ返しで聞き返した。
「うん。すごく遠いけど、鼻歌みたいな、やさしい声が聞こえる!」
少女は目を開くと、ほおを上気させて俺を見上げた。
まさか、という言葉を、すんでのところで飲み込む。
この子は、俺と同じなんだな。そう悟った。
それがどれだけ得難いことなのか、俺は三十数年間の人生で、身に染みてわかっていた。
俺は手のひらで少女の髪をくしゃっとなでた。
「お前、すごいな」
「そう?」
「大きくなったら、いい職人になれるぞ」
弟子入りしないか、と冗談めかして言うと、少女はわかっているのかいないのか、「する!」と嬉しそうに顔を輝かせた。
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