神の子

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「剣を持っている奴は両手で剣を握っているからお前はわからなかったのかもしれないが。普通は右腕が上に来る、左が上に来たら左利きだ。盾を持ってるやつも同じ、なんで右手で盾を持ってるんだ。普通は左だろ、右腕が空けば同じように武器を持ったり何か投げつけたりできる。神様の息子が全員左利きってか?」  ルオの言葉通り描かれている絵は全て左右が逆だった。動物や植物などが左右逆に描かれたところでわかるはずもない。しかし神の子供たちは道具を持っている持ち手が全て逆なのだ。ルオに何も言えずにいるラクシャーナに代わるように答えたのはエルだ。 「左利きというのはあり得ませんね。この国の経典では左利きは悪しき者の生まれ変わりとして殺されてしまいます。剣技はすべて右利き前提の型式となっているはずです」 「そんなはずない、そんなはずないわ! なんでいちいち逆に描くの! お前たち私を惑わそうとしているわね!」 「お嬢ちゃんよぉ、お前はガキの頃から何教わってきたんだ」  口を開いたのはルオの師だ。その顔は真顔にしか見えなかったが、ルオには怒りに染まっているのかわかる。 「人間が神を直接見る事は不敬にあたるって経典に書いてあっただろ。だから左右区別できるものを作るときは必ず左右逆に作る。そういったものがわからない物は抽象的にぼかす。はっきりと描かないのが暗黙の了解だ。ものづくりの職人の中では常識だぞ」  この国で生まれ育った人間の中ではこれは絶対に守らなければいけないことだ。たとえ教会の信者でなくても神に敬意を表す気持ちは誰にでもある。感謝の気持ちを持ち続けること。この地に、この国に生まれ育っていることを誇りに思うこと。それを敬意として神に示すことが自然と息づいている。それこそが本来の信仰だと、下町に住む全員が思っているのだ。 「本当の王家の人間だっつうんだったらよ、なんでそんなことも知らねえんだオメェは」 「この地下が真の王家の人間しか知らないなら、この絵を描いたのはあなたのご先祖様ということになります。神の血を引いているのなら、逆に描く必要などないでしょう。何故全て逆になっているのでしょうかね」  老人とエルの言葉にラクシャーナは何も言えない。そんな話聞いたこともない。いや、それよりもっと重大な問題がある。もしこの絵が、いや、残されていた資料も全て逆に描かれているのだとしたら。 「同じ場所に痣があるって大喜びしてたが、そりゃ勘違いだな」
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