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消えた弟
カン、カン、カン ガッガッ シャーッ シャリシャリシャリ
木槌を叩く音、ノミで削る音、鉋で削る音、やすりで角を丸くしていく音。子供の頃から聞いてきた音だ。工房と家がくっついているのでもはや日常の音となっていた。やがて父の腕にほれ込んだ権力者によって作る物すべて売れた。少し豊かになって工房を大々的に作り替えていつしか木を加工する音は遠ざかっていた。
それでも朝や夜、静かになった時はかすかに聞こえる。幼い時から聞き続けていたあの生活の一部の音。
――今日は音がならないな、疲れて寝ちゃったのかな、さっさと仕上げてくれないとこっちの作業に遅れが出るんだけど。
そんなふうに思いながら目を閉じればストンと眠りについた。そして次の日、食事の時間になっても姿を見せなかったので呼びに行ったのだが。寝室、工房の中、裏手にある材料の保管庫、その他あらゆるところを見て回ってもどこにもいなかった。
「どうして」
工房の中には作りかけの物がそのまま残っていた。ついさっきまで作っている最中だったと言っても不思議ではないくらい。道具も片付けずに使っていた場所に置いたままだ。自分の目から見ても、明らかに角を削っている途中だ。
ありえない、作っている物を途中で放り出してどこかに行くなど。そして食いしん坊だから朝食も絶対に食べるはずなのに。
「サージ!」
生まれた時からずっと一緒にいる双子の弟。弟が作ったものを、サカネが最後の仕上げをする。職人の家で育った二人は根っからの職人気質だ。だからこの状態がいかにありえないことか、サカネには痛いほどよくわかる。その後どこを探しても何日たってもサージは見つからなかった。自分の片割れがいないという事実。心が抉れた気がした。
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