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しばらくは、サイコロを振ろうという誘惑には抵抗できた。
しかし、極々平均的な自分自身の人生に私は退屈しきっていた。人は皆、自分の人生に何か、信じられないようなことが起きることを期待するものだが、私の場合は明らかに、このサイコロがそれだった。このサイコロを振れば思いもよらない人生が開け、振らなければ平凡な人生のまま一生を終える。私の人生はそんな筋書きになっているのだろう。
そんなことを考えていた帰宅中のことだった。
「…………」
私はサイコロを振る。掌の中で振ったそれは、『5』の目を出した。
「何も起きない、よな」
と呟いたのも束の間、私の足元に紙切れが飛んできて、カサカサという音を立てる。宝くじの券だった。
果たして、宝くじは二等という高額当選だった。それから私は味を占めて、折に触れてはサイコロを振るようになった。金、女、成功、サイコロの力で私は全てを手に入れることができるようになったのだ。
考えてみて欲しい。このサイコロは、不運より幸運が訪れる確率の方が高いのだ。またこのゲームの巧妙なところは、四割六分三厘の確率、つまり半分近くの場合には何も起きないことだ。振ってみても何も起きないこと、それはもう一度サイコロを振る誘惑を否応なしに高めてしまう。
いずれにせよほとんどの場合、不運は些末で対処可能なものだった。そして幸運によって私は、ちょっとやそっとの不運に対処するには十分すぎるほどの力を手に入れていた。——
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