3.本当の気持ち

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「俺、東京来んの親に反対されたんだ。邦彦みたいに地元の大学に進学すればいいだろって」 「邦彦って、北島くんのこと?」 幼なじみの北島邦彦(きたじまくにひこ)。 柔和な顔立ちをしていて、物静かで、優しい親友。 けれど、彼は地元でいちばん偏差値の良い大学に進学して、自分は東京へ。卒業以来一度も連絡をとっていない。 「今思えば、東京に来たら俺もスゲー奴になれるって勘違いしてたんだよな。ただの平凡で退屈な人間なのに……」 美雨は人差し指で、恭平の言葉を止めた。 「坂口くんなりに頑張ってるんでしょ?そんな風に自分を卑下しないでよ」 そんな悲しそうな顔、させるつもりじゃなかったのに。 恭平は口角をわずかに上げて、美雨の目をまっすぐ見つめた。 「……ありがとう」 ほっとしたように微笑んだ美雨だが、すぐにその笑みは消えてしまう。 「坂口くん、あのね……」 彼女か何かを言いかけた時だった。 「お待たせいたしました」 美雨には、チョコレートケーキとホットの紅茶。 そして恭平には、夏みかんのジュレとアイスコーヒーが運ばれてきた。 「なんか言おうとしてた?」 彼女はふるふると首を横に振った。 「ううん。なんでもない。坂口くんこれからバイトだもんね。……早く食べよ」 ふたりは、揃って手を合わせる。 「いただきます」 「……うまっ」 恭平が笑顔になると、美雨も嬉しそうに微笑んだ。
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