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6.もうひとつの片思い
『キタジマさん、聞こえますか?』
聞こえてます。
そう答えようとしたけれど、全身が痛くて、口を開くのも億劫で、結局何も答えられない。
閉じた瞼の裏、浮かぶ情景。
窓の外から吹き込むそよ風。
揺れる長い黒髪の持ち主をじっと見つめる彼の横顔。
坂口恭平。僕の幼なじみ。
彼の視線の先にはいつだって彼女がいる。
喜多嶋美雨。
恭平の視線は好意を持つ異性に向けられるそれで、僕には永遠に向けられないもの。
心臓がぎゅっと握りつぶされたみたいに痛んで、僕は気づく。
恭平を異性として好きなんだって。
だけど、すぐ隣近所に情報が筒抜けになるようなこの町で、同性愛者ってばれたらどうなるかも、容易に想像できたから。
本当の気持ちを、無理やり自分の中に押し込めて、僕は卒業の日を迎えた。
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