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1.偶然の再会
その日の天気予報では、梅雨の合間の貴重な晴れがいちにち続くという話だった。
けれど坂口恭平が駅の改札を出た時、空は灰色の雲に覆われ、しとしとと雨が降り始めていた。
こんなことなら、折り畳み傘を持ってくるんだった。
天気予報を無条件に信じた自分を呪いながら、恭平は傘なしでどう出勤するか思案する。
バイト先の居酒屋まで走れば5分。
たまたま休講になったおかげで、一旦雨をしのいでも出勤時間には十分間に合う。
まずはカフェの爽やかな青色のひさしを目指し、恭平は走り出した。
濡れた髪をハンカチでざっと拭っている最中、もうひとり恭平の横に駆け込んでくる。
肩で息をしているその人の横顔を見た恭平は、驚きのあまり目を見開いた。
「喜多嶋……さん?」
今はしっとりと濡れている長い黒髪。
眼鏡の奥の切れ長な双眸。
薄くさくら色に色づいた唇。
「……坂口くん?」
きょとんとした表情でこちらを見ているのは、高校時代の同級生、喜多嶋美雨その人だった。
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