1.偶然の再会

1/4
前へ
/20ページ
次へ

1.偶然の再会

その日の天気予報では、梅雨の合間の貴重な晴れがいちにち続くという話だった。 けれど坂口恭平(さかぐちきょうへい)が駅の改札を出た時、空は灰色の雲に覆われ、しとしとと雨が降り始めていた。 こんなことなら、折り畳み傘を持ってくるんだった。 天気予報を無条件に信じた自分を呪いながら、恭平は傘なしでどう出勤するか思案する。 バイト先の居酒屋まで走れば5分。 たまたま休講になったおかげで、一旦雨をしのいでも出勤時間には十分間に合う。 まずはカフェの爽やかな青色のひさしを目指し、恭平は走り出した。 濡れた髪をハンカチでざっと拭っている最中、もうひとり恭平の横に駆け込んでくる。 肩で息をしているその人の横顔を見た恭平は、驚きのあまり目を見開いた。 「喜多嶋……さん?」 今はしっとりと濡れている長い黒髪。 眼鏡の奥の切れ長な双眸。 薄くさくら色に色づいた唇。 「……坂口くん?」 きょとんとした表情でこちらを見ているのは、高校時代の同級生、喜多嶋美雨(きたじまみう)その人だった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加