6人が本棚に入れています
本棚に追加
しばしの沈黙を挟んで、邦彦は口を開いた。
「……なんでわかったの?」
「邦彦が事故に遭った時期を聞いて、全部が繋がった。確証はなかったけど、当たってたんだろ?」
理由なんてどうでもいい。
あのカフェで会ってた時間も、涙を流して伝えてくれた“好き”も、全部真実だったって信じてる。
「どうしても俺に好きって伝えたかった、って言ってたのも本気なんだろ?」
「あの日言ったことに全部嘘はないよ」
邦彦は苦々しげな笑みを浮かべた。
「ごめん。こんなこと言われたら引くよね」
自虐的な響きを帯びた邦彦の言葉を止めたくて、恭平は人差し指で唇に触れる。
「そんなこと言うな」
俺の“好き”は友だちとしての“好き”で、邦彦の言うそれとは違う。
俺たちの“好き”は、永遠に交わらない。
……だけど。
「気持ちには応えられないけど、好きって言ってもらったのは嬉しい。それに友だちとして好きなのは本当だから、邦彦が生きててくれて良かったよ。マジで」
だからせめてこれからは、親友として傍にいる。
空気がきれいで、いつも穏やかな時間が流れてて、良くも悪くも隣近所との繋がりが強いこの町で、邦彦をひとりぼっちにしないように。
「これからはちょくちょく連絡取り合おうぜ」
ふふっ、と邦彦は穏やかに微笑む。
その笑みはやっぱりあのカフェで向かい合ってた“美雨”に似ていた。
「友だちとして?」
「そう。俺たちはずっと親友だ」
差し出した小指に邦彦は小指をからめる。
そよ風がカーテンを揺らす。
ふたりが窓の外を見ると、雨あがりの空に七色の虹がかかっていた。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!