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数分後、お洒落な内装のカフェに入ったふたりは、木の温もりが感じられるテーブルをはさみ向かい合っていた。
店内は女性客のグループかカップルばかり。
自分ひとりでは敷居が高かったであろう空間で、こうして一緒にいるのがなんだか不思議だ。
「坂口くん、頼むもの決まった?」
まだ店内の雰囲気に慣れない恭平が「あ……おう」と答えると、彼女は手を上げて店員を呼んでくれた。
注文した商品を待つ間、美雨は穏やかに微笑み口を開く。
「なんか、久しぶりに会った感じだね」
「まだ卒業して3か月しか経ってないのにな」
同じ教室で、挨拶以外ろくに言葉も交わすことも出来ず、けれど恭平はいつも視界の片隅で美雨の姿を捉えていた。
さらさら風に揺れる黒髪。細い肩。
目の前にいる美雨は、高校の時とどこも変わっていない。
恭平の胸に、あの頃の淡く甘酸っぱい感情がよみがえる。
「お互い東京の大学に進学したのは知ってたけど、こうしてばったり会うなんてびっくりだよ」
「……だな」
「坂口くんこれからバイトなんだよね。時間大丈夫?」
「出勤まであと2時間あるから平気」
ほんと、今日5限休講になって、雨が降ってくれて良かった。
我ながら現金だけど、外れてくれた天気予報にまで感謝したい気分だ。
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