6人が本棚に入れています
本棚に追加
「喜多嶋さん」
このまま終わらせたくない一心で、恭平は言葉を継ぐ。
「もし迷惑じゃなければ、また会いたいんだけど……どうかな?」
紅茶のカップをソーサーに置いた美雨は、静かに微笑む。
「うん。私もまた会いたい。次また雨が降ったら、このカフェで会お。……約束」
差し出された右手の小指に小指をからめる。
指きりげんまん、なんていつ以来だろう?
恭平の胸の鼓動は否応なしに高まる。
なるべく長く美雨と一緒にいたくて、自然とプリンを食べるスピードは落ちた。
会計を終えてカフェの外に出た時も、まだ雨は降り続いていた。
「それじゃあ、またな」
「うん。また会おうね」
ひさしの下で手を振って別れたふたりは、雨の街へと駆け出していく。
なんで、次また雨が降ったらなんて条件なんだろう?
疑問に思わなかったわけじゃないけれど、それを上回る期待感が頭の中を占めている。
東京に来てから初めての、退屈な毎日が変わりそうな予感に、恭平はなんだかわくわくしていた。
最初のコメントを投稿しよう!