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2.曖昧な約束
それから数日、雨は降らなかった。
今日こそ、雨降ってくれよ。
恭平の願いが通じたのか、その日の天気は朝から雨。
バイトは休みだけれど、美雨との約束がある。
講義が終わった直後、恭平は教室を飛び出し全速力で駅まで走った。
今日こそ連絡先を交換しよう。
そう心に決めて、紺色の傘をさした恭平はカフェへと向かう。
カフェのすぐ近く、道行く人たちの邪魔にならない場所で、アイボリー色の傘をさした美雨が立っていた。
「ごめん。待った?」
「ううん。私もさっき着いたばっかりだよ」
ふたりはひさしの下で傘をたたみ、軽くゆすって雨粒を落とす。
くるくると柄の細い傘を巻いて、傘用のビニールに納める美雨の仕草は、とても綺麗だ。
先に店内に入るよう促し、恭平は美雨の後に続く。
「いらっしゃいませ!」
店員の明るい声がふたりを出迎えた。
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