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「どうして……わかってくれないの?」
細く消える様な声でキミが泣いた。
分かってくれていないのは、キミの方だ。僕はいつだってキミのことを考えて、キミのためにと動いている。
それなのに、どうしてそんな風に辛そうに泣くんだ。
「もう一緒に居たくないよ」
震える肩に触れようとした瞬間、ものすごい勢いで現れた男が、キミの肩を包み込んだ。
ああ、キミにはもう、他に守ってくれる男が出来ていたのか。
一体、僕がなにをしただろう。
毎日遅くまで働いて、帰れば疲れ果てて眠るくらいの体力しか残っていなくて。休みの日は趣味や仕事に時間を費やしてきていた。
ああ、そうか。
僕は、キミに何もしてあげてこなかったんだ。ただそばにいるだけなんて。そんなの、居ても居なくてもおんなじだ。
きっと、キミはそう言いたかったんだろう。
気がついたら遅かった。
なんて、そんな言葉、よくある失恋ソングで耳にしたりするけれど、実際そんなの気がつけるわけもなくて。
気がつけないまま突っ走って、傷付けて、傷ついて。ずっとこのまま楽しければいいやなんて自分だけの自己満足で。
「分からないよ、キミがどうして欲しかったかなんて……」
ちゃんと言葉にしてくれないと、わからない。
キミが何を考えていて、
僕をどう思っていてくれていたのか、
最後は怖くて聞けなくて、誤魔化して。
「さようなら」
泣いているキミに手を差し伸べることも、キミを抱き寄せた男を引き離すことも、行くなと引き止めることも、出来なかった。
結局、気がついた今はもう遅かったって、静寂の中に一人きり。
戻れない過去をこれからどれだけ引き摺りながら生きていけばいいんだろう。
キミの笑顔が見たくて悩んだり、キミの怒っている訳に戸惑ったり。
そんな日々が、今では懐かしく思う。
いつもそばにいてくれていたから、いつしかそれが当たり前で、ずっとそれが、永遠に続くんだと自分勝手に思っていた。
耳鳴りがするほどに静かだ。
騒がしい日常から離れて、まるでお祭りが終わった後のように、世の中から全ての音が無くなったように、聞こえるその耳鳴りだけが、唯一の音。
もう一度、僕の名前を呼んで欲しかった。
もう一度、大好きだと言ってほしかった。
もう叶うことのない願いを抱えながら、この先生きていけるほど、僕は強くはないかもしれない。
だけど、前に進まなければ。
この弱い心を踏み台にして、また明日から前を向いていかなければ……。
ようやく聞こえてきた音は、僕の中から湧き上がって吐き出てきた、後悔の嗚咽だった。
さようなら。
大好きなキミと、キミを大好きな、僕。
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