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【序章】『アキタコの妹』
「ついに、だね」
息のかかる距離でささやかれた言葉に震えた。右手に絡まる細い指と、左手に絡まるコツコツした指が滑らかに私の手を包み込む。
――あぁ、ついに、なんだ。
ずっと、ずっと、ずぅーっと待った。紆余曲折なんて一言で表せないほどの長い長い道を歩いてきたような気がする。離れて、くっついて、衝突して、一度は壊れて、何回も何回も修復するために駆けずり回った。
壊れないようにと大事にすればするほど、いったい何のために奔走しているのかが分からなくなった。周囲の目を気にして、私たちの関係性を言葉で表そうとして、そのどれにも当てはまらないと分かったときに、じゃあ一体何だったのかとこれまでの時間を疑う。
無力感と絶望。困惑と焦燥。異常と忌憚。ネガティブな言葉はたくさん当てはまるのに、ポジティブな言葉は何も当てはまらない。いや、当てはめさせてくれない。祝福なんて夢のまた夢。どうせ私たちは――。
「またそんな顔してる」
手の甲にキスされる。唇が離れる瞬間に、水が拡散するような鋭利だけれども丸い、矛盾したような音が脳を満たす。
「もういいんだ、僕たちはこれで」
手が握られる。強くもなくて、弱くもない。優しく包み込んで、幸せの気持ちに満たされる。もういいなんて、諦めじみた言葉だけれど、私たちにはそれが救いの言葉だった。もう気にしなくていい、私たちが私たちであれば、それでいい。それでいいんだ。
「これで、よかった」
よかった、よかったと何度もつぶやく。自分に言い聞かせるためではなく、私たちが共通の認識として捉えるため。これでよかった。もしもの場合なんて想像上でしかなく、もし違う結末だったらどうなっていたかなんて、今感じている幸せの前では無意味だ。
今、幸せで、これからも幸せであればそれでいい。それでいいんだ。
何もすべてから肯定されなくてもいい。肯定してくれる人たちから肯定されて、祝福されて、私たちも幸せならそれで幸せ。
だから――。
何度も何度も伝えてきた。そしてこれからも毎日欠かさず伝えていくと決めた言葉。伝えたいが溢れてくるこの言葉がきっと、私たちをつなぎとめてくれる。恥ずかしくても、溢れてきちゃうから。
「大好き」
「わたしも大好き」
「僕も」
私たちは3人とも手を絡めあった。
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