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酔った勢い
「――雨が〜、ふってきた〜よぉ〜、上等じゃいこらぁ〜、うい〜ヒックッ」
夜雨、会社終わりの私はいつも『良く仕事が出来ました』とご褒美に居酒屋で同僚と飲んで満足して帰えっていた。朝に天気予報を確認して分かっていて、酔っていてもタクシーに乗り濡れる心配もない。
「あ〜めあめぇ〜」
「お客さん酔ってますね」
「はいっ、この藍浦 愛依っ、25才っ、よってわせんっ!」
シュビッと意味なく敬礼。と思ったら今度は運転手に、
「ねーっ、どうして雨降らすっ? ねぇーっ!」
「ちょ、ちょっとお客さん落ち着いてっ」
なぜか怒りだし後部座席から前に顔を出そうとしてしまう。
「一週間も降ってるじゃないっ、やめさせろぉ〜!」
「おっ、お客さんっ、暴れないでっ、そっ、そうだっ、ホラッてるてる坊主」
「あ〜ん?」
「て、てるてる坊主でも吊るせば良いんじゃないかな、ははっ……」
「いーね、てるてる坊主……いぃ〜ねぇぇ〜っ!」
その場を落ち着かせようと、思い付きの運転手による『てるてる坊主』という言葉にどうしてか満面の笑みで納得して後部座席に座った私であった……。
酔って迷惑をかけたとは微塵も感じていない私は自宅のアパートに帰って、バタンッと倒れる。
「ん〜、ららいま〜……かみ、かみ、はさみ、はさみ」
このとき頭に残っていた『てるてる坊主』を作るためによれよれの体でテーブルに肘を付き、紙とはさみを用意してボール・ペンで顔を描く。
「んにゃ〜……さびしぃ……んあ〜、キュウリョウ少ない……さびしぃ」
日頃から心の奥で思ってることを呪文のように喋りながら完成させると、
「べきた〜……んがぁぁ〜、んが〜」
役目を終えまぶたが閉じておやすみ……。
愛依……。
「んにゃ、ムニャ〜」
「ねぇ愛依」
「やかましい〜……」
「愛依ってばぁ〜」
「なんじゃ……はっ、なに、ん?」
私は目を開く。するとだだっ広い白い部屋、何事かと一気にパチクリと目が覚める。
「な……なによ、ここ、いったいどうなってるの……まさかっ……酔った勢いで他の男にホイホイついて行って……あぁ〜ん、私そんな女じゃないのに〜!」
「ねぇ」
「はっ……てるてる坊主って、あんたが〜……喋ったの?」
「そうだよ愛依」
「ひぃっ!」
驚いたけどテーブルは自分の家の物で周りには何かを作ったであろう紙とはさみが置いてある。
「驚くことはないだろ、愛依がボクを作ったんだよ」
「ええっ、わ、私がっ?」
「酔ってたからね、憶えてないか」
確かに同僚と飲んではいたけど、だからって目の前のてるてる坊主が喋ってるのは変でしょ。これは夢と思いつねると、
「痛くないっ、ははっ、これは夢ね!」
夢ならばと安堵。フワッと浮いて私に来るように促すてるてる坊主に面白そうと着いて行ってみた。
「ふふっ、夢なら少しは楽しんじゃお」
「こっちだよ」
「待ってよ、私のてるてるちゃん」
遠くに行くわけでもなく、白い大部屋から白い扉を開いた目の前に案内された。
「この感じって……コンビニ」
「そうだよ、ここは『テルテル・ハート』、ボクを生み出してくれたお礼に愛依を連れてきたかったんだ」
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