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 深町(すすむ)は、自治公民館となっている小さな神社の前で立ち止まった。  時間を確認すると、ぎりぎりだった。余裕をもって家を出ていたはずなのに。  曇天なのに深く被っていたバケットハットのつばを、少し持ち上げた。  すぐ前に見えている小ぶりな鳥居。久しぶりに見たそれは、当時よりさらに小さくなったような気がした。  いや、鳥居だけではなかった。右手前の門柱に掘られている『奈和神社』という文字も、鳥居の先に見える社殿も、さらに言えばこの神社全体も。すべてが、記憶より小さくなっているように感じた。  今回の集会に参加する神社総代、部会の部長、自分以外の班長たちは、全員すでに社殿の中にいると思われた。  だが入り口は閉まっており、それを確認することはできない。  進は胸に手を当てて深呼吸を一つすると、鳥居をくぐろうとした。 「おはようございます」  突然、あいさつが後ろから聞こえた。 「ひえっ」  高く、少しかすれた、大人のものではない声。体がビクっと硬直した。  振り返ると、半袖半ズボンで、よく日焼けした、活発そうな笑顔の男の子が立っている。  知らない子だった。 「あっ、お、おはっ、おはようございます!!」  どもりながら、大きな声であいさつを返した。頭も下げていた。  新入社員研修で教わった直後のような、硬いお辞儀。 「うわぁ」  頭をあげると、男の子は耳をふさいでいた。  そしてどうやら、顔をしかめながら笑うという器用なこともしていた。 「あ、うるさかった、よね。ご、ごめん」  進は慌てて謝った。  七月にしては涼しい日なのに、汗が噴き出してきた。
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