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「下衆野郎、どけ!」 鵜沼を足蹴りしたのは 端麗な顔立ちの若い男。 その小柄な容姿には似合わぬ 力強い右足は今一度 鵜沼の顔を蹴りとばしてから、 くりに手を差し伸べた。 「き、貴様…私を誰だと…」 「知ってるよ、下衆。  お前が下衆だってことだけ  知ってるだけで充分だ」 「なんだとぉ…つぅ…」 忌々しそうに鵜沼が 呻いているところへ 「あなた!あなたぁ!?」 鵜沼夫人の声。 夫が早起きしたことを 不審に思い、兼貞と紹子に相談、 紹子は直ぐ様、あの鵜沼の、 下品極まりない横顔に くりの身の危険を案じ 駆けつけたのである。 「どうなさったの!?」 藁に塗れて蹲る鵜沼に 夫人は駆け寄った。 その後ろには牧場の使用人達。 みっともない鵜沼に、 泣いているくり… それで事の九割を 皆理解して苦い顔になった。 ただ、その薄汚れた景色に 朝の光を背に立つ男…。 弱い者を庇い、正義の前に 澄んだ瞳で立つ人。 紹子は初めて…“男” “人間”を見た気がして 息を呑んだ。  
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