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「それは申し訳ないことを」 兼貞が鈴之介と晋太郎に 礼を述べると 「ほんとうに危うきところを  お助け戴きまして」 紹子も礼を。 その声に晋太郎が振り向くと 自分のショールをくりに掛け、 その肩を抱く紹子の姿、 晋太郎はさっきの気概が ポンと抜けたように 美しい紹子に見入ってしまった。 「あまり美しいので  言葉を無くしたかい?  こちらの今泉兼貞男爵の  御許嫁の紹子様だ。  僕も立候補していたのに、  ハハハハハハ」 「嘘仰るわ、鈴之介様。  わたくしなんて  まるで興味も無いくせ」 鈴之介と紹子の軽妙な会話で 我を取り戻した晋太郎と… やや溶けた張り詰めた空気。 いつの間にか鵜沼夫妻の 姿は消えていた。 「ともかく、くり、  嫌な思いをさせた…  申し訳ない…」 兼貞と紹子が、 くりに対して頭を下げると 「なるほど…いい人間も  いるんだな…」 晋太郎は口を尖らせて 少しだけ笑った。 その天使のような微笑みに 紹子の頬にも笑みが溢れた。
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