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その晴也が4日前、俺の目の前で丘の上の階段から転落した。
俺はすぐに救急車を呼んだ。
病院に搬送後処置が行われ、運良く大きな怪我も無いように思えたが、晴也は目を一向に覚まさなかった。
―――まるで、現実から逃げ出したかのように。
そして今日、目を覚ました。
俺は同僚に仕事を引き継いでもらい、晴也の病室へ急いだ。
「真人はいつ来るの?真人ならわかるから!」
混乱している晴也の声が、廊下まで響いている。
俺は一度深呼吸をし、病室のドアをノックして「晴也、やっとお目覚めか」と何食わぬ顔で顔を出した。
「まこっ…真人…」俺の顔を見て、ひどく落胆したような顔をする晴也。
「本当に…僕は25歳なんだね」
「晴也、高校生の頃の記憶までしかないみたいなの。…ご両親が亡くなった後の記憶で良かったとは思うけど…」亜弓が俺に耳打ちする。
確かに、もしこれが中学2年生以前までの記憶しか無ければ、晴也は両親の死をまた受け入れなくてはいけなかった。
しかし高校生の晴也といえば、俺から離れて晴也の世界が広がったからか、急に俺に対してそっけなくなった頃ではないか。
一つ屋根の下に住んでいながら、露骨に俺を避けていた頃。
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