小糠雨(こぬかあめ)

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小糠雨(こぬかあめ)

病院に駆けつけると、伯父はまだ意識があった。私の顔を見ると微笑んで 「急がせて悪かったな。お前の顔も見られたし、もう思い残すこともなくなった。」 「伯父さん。たくさん頑張ったね。頑張って生きてくれてありがとう。 もう、疲れたでしょ。楽に休んで。 たくさん可愛がってくれて、ありがとう。」 「顔が見られてもう充分だと思ったけど、人間は欲が深いものだな。 今度は、お前の花嫁姿を見ておけば良かったと…。でも、そうだな少し疲れた。休むとするか。 母さん、長い間看病させて苦労かけたな。ありがとう。」それだけ言うと、本当に眠るように目を閉じ、そのまま伯父は逝った。 葬儀を終え、身の回りの片付けを少し手伝い、帰ったのは一週間後だった。 部屋に帰ると安心したのか、流石に疲れが出たようだった。 広げてあったビニール傘をたたみ玄関先に置いた。 上司に連絡し、もう一日休む事を伝え、コンビニで帰りがけに買った弁当で簡単に食事をして寝ることにした。 荷物の片付けは、明日にしよう。 その日は、ベットに入った途端眠りについたのだった。 翌日は、よく晴れて陽射しが強い日だった。 十日近く占めきった窓を開け、空気を入れかえながら、荷物の整理をした。 礼服はクリーニングに出しに行かないと、と思い、忘れないように玄関先に置く。その時、ビニール傘が目に入った。駅に持っていく前に何かお礼を考えなくちゃと思った。 いつ取りに来るかわからないから、食べ物はダメだし、タオルも変よね。タオル地のハンカチなら、かさばらないし、事務室に預けてても邪魔にならないわよね。 それでも、今日は流石に出掛ける気にはならなかった。天気が良すぎて、大切な伯父を亡くした傷心に、今日の陽射しは眩しすぎた。 片付けが終わると窓も閉めた。 今の疲れた心には、音も立てずに降りそそぐ、しっとりと慰めてくれるような優しい小糠雨が似合うようだった。
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