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「あ、雨だ……」 「やっぱ降ってきたー。さっき雨のにおいしたんだよねー」 「え、そうなの? その"雨のにおい"ってやつ未だにわからないんだけど」 「もー、周さんはまたそうやってあたしのこと田舎の子扱いするー」 「違うってば」 「いいのいいの。都会育ちっぽいもんね、周さん。じゃあ、わたしそろそろ帰るね」  周は少し拗ねた様子で帰ろうとする絢夏の腕を掴み、そのまま自分の方へと引き寄せて、後ろから抱き締める。 「あ、周さん……?」 「……雨が止まなければいいのにね」  高くもなく低くもない、少し甘ったるさもある声で、周は絢夏の耳元で囁きかける。 「……え?」 「雨がもっと降れば、僕らがもう少しだけ2人きりでいられる理由になるでしょ?」 「周さん、なに言って……」 「なーんちゃって、驚いた?」  周はすぐに体を離して、絢夏の前に立って顔を覗き込む。 「びっくりした!」 「ごめんごめん。いたずらが過ぎたね。車、玄関までまわしてくるよ、送ってってあげる」 「いいよ、傘貸してくれれば。明日返すし」 「だーめ。夕方に女の子が1人で歩いたら危ないよ。ここで待ってて」  絢夏をその場に留め、シューズボックスの上に置いてあった車の鍵を持って足早に車庫に向かう。
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