父の背中

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 そして、冬が来た。この年の冬はいつもより雪が少ない。そういう年は、冬も活発に動く獣もいるそうだ。  「ヨハン、狩りに出よう。」  いつもより険しい口調で、父はヨハンに声をかけた。  ヨハンはいつもとすこし雰囲気の違う父に戸惑いながらも、彼のそばを離れず付いて行く。普段の装備よりもずっと重い荷物を背負っていながら、いつも以上に足取りが早い。  父は巡回している区画よりも、より遠く険しい山中へと分け入っていく。朝未明に村を出て、日が真ん中を過ぎ少し傾くころまで歩いた先で、父はようやく腰を据えた。  父は普段ほとんど行わない自分の臭い消しを 入念に行った。それに倣いヨハンも自分の臭い消しを行う。  「…これから私達は大物を狩る。狩を始めたら、私の言葉を逐一漏らすな。いいな?」  ヨハンは父の言葉に頷く。よし、と父は短く返し、しばらく遠くを見つめた。ヨハンは父の視線に何があるのかわからなかったが、同じ方向を見つめた。…よく見えなかったが、今何かがモゾリと動いた気がした。それはおかしい。だって、そんなはずはない。  「…来たか。」  ヨハンが自分の目を疑うのと同時に、父が低くつぶやく。  そして、森の木々を倒しながら、そいつは現れた。 ___ギyぃぃオオオャゃヵヵぁヵぉぉぉァァァl  動物の声と思えない汚い音を発して、巨躯をうねらせ、周りの土を掘り起こし巻き上げた。どこから現れた?厚く積もった雪下からか?  「あれは、必ず殺さなければならない魔物だ。…そして、私達の獲物だ。」  父の言葉が重い。もしあんなのが村にきてしまえば、全てが終わる。ヨハンでなくても容易に理解できる。  魔物の額部が光ったように見えた。よく見ると魔物の頭には一本の尖った角があった。  ヨハンはこの魔物を、「一角の魔物」と呼ぶことにした。  
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