父の背中

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 そうして2つの季節が過ぎるころには、ヨハンは父のそばを離れず、共に行動できるようになった。  ようやくヨハンは父から弓の扱い方、狩の仕方を教わった。父の指導はとても丁寧でありながら、無駄のない言葉で、一日でより多くのことを教えられるよう、工夫が施されていた。一月も経てばヨハンは少年ながら、そこそこ狩りを経験した大人たちよりもずっと深い知識と、技術を身に着けていた。  ヨハンは父の存在の大きさを改めて実感した。  季節の変わり目、とりわけ冬が迫ると山の獣たちは殺気立つ。みな、食糧を蓄えることに必死になるのだ。それは人も同じで、ヨハンの村も越冬の準備で忙しない。より一層狩りに励む者もいれば、暖を取るための寝具を新調したり薪を集める者もいる。大人子供関係なく、村のみんなが自分にできることをした。  前の年、ヨハンは子供が出来る作業をしていた。だが今年は大人たちに混じって狩りに出た。ヨハンは獲った動物の処理に長け、肉の鮮度を長く保つと、大人たちから太鼓判をもらっていた。  この時期の狩は一日で帰れない場合がよくある。夜に活動している獣の群れが、日の傾きと共に襲ってくることがあるからだ。村のみんなは示し合わせた場所で合流し、そのまま村へ帰るか、一晩待つかを話し合う。後者ならば、ヨハンの腕の見せどころだ。  狩で野営をすることになったある夜。ヨハンの父は、ヨハンの頭を軽く撫でて言った。  「お前を誇りに思う。」  ヨハンは、全身の血が沸き立つのを感じた。あの父が、自分のことを誇りに思うと言ってくれたのだ。  ヨハンは、焚き火の熱も、星のきらめきも、この夜の全てを生涯忘れることはないだろうと思った。
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