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「牙燕様。私が皇太子を名乗ることをお許し下さい。さすれば先々代皇は蛍宮の礎となる」
「……父君の想いを継いでくれるか」
「透珂の分まで」
牙燕は何も言わず、静かに小さく頷いた。孔雀はもう一度深く頭を下げると、天藍へ向き合った。
そして天藍は上着を脱いで孔雀へ差し出した。現蛍宮の禁色である緑をふんだんに用いた皇太子のみに許された服だ。
「皇太子の座をお返しする」
「謹んでお受けいたします」
孔雀はそれを受け取ると、しっかりと握りしめた。
――全て終わった。
そんな空気が流れたところで薄珂はすっくと立ちあがった。
「さて、と。準備はこれで終わりね」
「はい?」
「終わった気になられちゃ困る。俺の商談はここからだ!」
「……え?」
美しく話がまとまったような落ち着いた雰囲気はがらがらと崩れ、護栄は見たこともないほどに眉間にしわを寄せていた。
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