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第二話 準備開始
国葬の贈呈品を任されてから、立珂は宮廷の庭園で侍女と話し合いをする時間が増えていた。
「どんなのがいいかなあ」
「今の蛍宮有翼人を表す物が良いですね。来年はまた変わっているでしょうし」
「れきしだね! れきしをあらわすもの!」
「なら立珂様を表す物が良いですわ。立珂様がいてこその今ですもの」
「立珂様の三店舗も歴史の代表となりましたしね」
「そういえば今日は『りっかのおみせ』に顔をお出しにならなくて良いのですか?」
「うん。美月ちゃんがいるからだいじょうぶなの」
蛍宮に来て数か月が経ち、薄珂と立珂の生活は規則が出来上がっていた。立珂の行先は手がけた三つの店舗だ。
一つは離宮を使用した『りっかのおみせ』だ。有翼人専用の生活向上を目的とした商品が主力になっている。
現場監督は歴代蛍宮皇に仕えて来た衣料品店『蒼玉』の娘である美月に任せ、接客は立珂が選出した侍女と共に回してもらっている。
立珂が一番多く顔を出すのがここだ。一般客との交流から新商品が生まれることも多く、彼らの生活が改善した時の笑顔を見れるのが立珂にとって最大の喜びだった。
「頼もしい方がいて良かったですね。天一有翼人店は紅蘭様が直々にご覧になってますし」
「あそこは私達が入ること自体難しいほどですものね」
立珂監修の二店舗目は『天一有翼人店』だ。商品は使いやすさよりもお洒落さや高級感を重視し、顧客は宮廷職員や富裕層である。
これは宮廷直営百貨店の瑠璃宮へ出店しているが、この接客は紅蘭が選出した侍女が立ち立珂の出入りは控えている。というのも、礼儀作法のままならない立珂は瑠璃宮の品位を損なうことが否めなかったからだ。加えて『りっかのおみせ』とは差別化を図りたい意図もあり、接客に立つことは無い。
何よりこの現場で商品について語り合う相手はおらず、売るだけというのは立珂のやりがいにはならないようだった。こういう納品や販売といった流通に関する業務は薄珂が担当することで、お洒落を生み出す立珂のやるべきことではないと薄珂も思っている。
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